「完璧なフォーム」など存在しない
諦めてください。
このトピックは私が時よりくどく説明しているものです。
もし私に現実世界で会ったとしたら、ぜひ「完璧なフォーム」について質問してみてください。1時間完結の講義/説教を聞くことになるでしょう。
本記事では、端的に説明しようと思います。
まず第一に、「そもそもなぜ完璧なフォームを追求しているのか」考えなければいけません。
現代社会の基礎(ポストモダンとは反対に)となっている仮定によるものだと私は予想します。
つまり、何でも知ることができる、という仮定です。
「科学という全知の手段により、あらゆる物事の機能を最適化するための方法を理解できる。」
「世界やその中の存在は全てゼンマイのように働くのだから、それぞれの部品の機能を理解すれば、完璧に動作する方法を学べる。」
上記のような考えが、「ベストなダイエット方法は?」、「ベストなトレーニングプログラムは?」、「完璧なフォームは?」といった質問を生み出します。
1920年代にはこのような考えは科学や哲学のほとんどの分野で消えましたが(おそらく理想として残っているものの、大半のケースで手に入れられるものとは考えられていない)、文化的意識には依然として存在しています。
特に生物学、つまり人間やその身体について語る時、「完璧」や「最適」、「普遍的」といった言葉を含んだ主張は、「かなり良い」や「現時点の知識では最適と考えられる」の代わりとして使われていない限り、存在の余地がありません。
それらに加えて、一般的なケースについては「良い」「悪い」をそれなりの精度で述べられますが、そのような判断もそれぞれの固有なケースにはそのまま応用できません。
理論上平均的な人にとってのある種目の完璧なフォームが理解できたとしても、全てのケースにそれを適応できないです。
1. 四肢の長さの違い
レオナルド・ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図によって「平均的」な比率が理想として生まれたかもしれませんが、おそらく無いでしょう。
ある身長に対する各骨特有の平均的な長さはあります。しかしながら、体節の長さが数パーセント変われば、「最適」な方法を見つけるという目標からは遠ざかります。
胴体と大腿骨を例に挙げてみましょう。 大腿骨は平均的に身長の24%の長さです。胴体は29.5%程になります。
胴体に対する大腿骨の長さによって、スクワットのボトムでどれ程前傾しなければいけないかが大きく決まります。
大腿骨が短く胴体が長い人は、比較的上体が直立していて、ほとんどどのようなスクワットのフォームでも強力なボトムポジションを得られます。
大腿骨が長く胴体が短い人は、かなり前傾しなければいけません。
上記の24%と29.5%の比率の人にとって最適なフォームでも、この平均的長さから遠ざかるほど、不適切なフォームになっていきます。
2. 解剖学的な特徴の違い
スクワットに関して言えば、股関節の形状によって深くスクワットするために最適なフォームが変化し、股関節で屈曲、伸展、もしくは回旋するそれぞれの筋肉への負荷も変わります。
非常に広い足幅でパラレル以下までスクワットできるけれど、狭い足幅ではパラレル手前までしかできない股関節の人もいます。
一方で、かかとがつくような足幅でかかとにお尻がつくまで降ろせるが、肩幅より広くなった途端に深くしゃがめなくなる人もいます。
ヒップソケット(寛骨臼)の骨盤上の位置、骨盤自体の形状、大腿骨頭の角度や回旋、ヒップソケットの深さといった要素によって、人によってどのようなスクワットのフォームが良いのか、悪いのかが変わってきます。
これに関してはこちらの記事で詳しく解説しているので、本記事ではこの程度にしておきます。
さらに、膝の形状も、適切な膝の軌道に影響を与えます。
大腿顆が全て同程度の長さの人もいれば、内側顆だけが非常に長い人もいます。
これによって、様々な角度の膝屈曲、股関節外転、大腿骨回旋といった動作における半月板や人体への負荷や関節の動作が変わってきます。
3. トレーニングの目標の違い
パワーリフティングというスポーツのために、パラレルより低く、人間が挙上できる最大重量をスクワットしたいとしましょう。
その場合、股関節をさらに利用でき、強力な伸張反射によりパラレルのすぐ下よりはしゃがめない程の、若干広めな足幅がおそらく最適でしょう。
ボディビルディングのために巨大な大腿四頭筋を身につけたい、もしくはウェイトリフティングのために脚の筋力を向上させたいとしましょう。
その場合、スクワットが深い程大腿四頭筋の活動は活発になるため、可能な限り深く上体を起こした状態でスクワットできるテクニックの方が適切です。
仮にスクワットの「完璧な」方法を決められたとしても、目標によってあるテクニックが良い場合もあれば悪い場合もあるため、スクワットで何を「達成」したいかという文脈の中で判断されなければいけません。
4. 過去の怪我やトレーニング経験の違い
どのようなポジションの方が強いのかを決める要因となる強みや弱点は、人によって異なります。
ポステリアチェーンが異常に強いのであれば、フラットなシューズで股関節優位なスクワットが、最大重量を上げるために最適な方法かもしれません。
※ポステリアチェーン:脊柱起立筋や大殿筋、ハムストリングスなど身体の背部に属する筋群。
トム・プラッツのような大腿四頭筋があるのであれば、意図的に股関節優位なスクワットにすることで最大の強みを殺してしまいます。
さらに、膝を怪我していたり、足首の可動域が限られている場合はどうしましょう?
あなたにとってのスクワットの「ベスト」フォームは、自身が抱える問題を回避して痛みなくトレーニングできるフォームであり、「最適」な方法などどうでもいいのです。
じゃあどうすればいいのか?
一定の型に無理矢理合わせたり、「完璧」なフォームを追求して時間を無駄にするのを止めましょう。
個性や人と異なる点を受け入れてください。
トップパワーリフターは一定のやり方でスクワットしているように見えるかもしれません。
それは、パワーリフティングにおいて普遍的に最適なスクワットの方法だからなのでしょうか。それともトップスクワッターの身体的特徴が似ているため、最適な結果を出すためのテクニックが限られているからなのでしょうか。
トップウェイトリフターは一定のやり方でスクワットしているように見えるかもしれません。
それは、ウェイトリフティングにおいて普遍的に最適なスクワットの方法だからなのでしょうか。それとも、トップウェイトリフターは競技で上手くいくために必要な身体的特徴を皆持っているのでしょうか。
上記は主に深さに関してです。ベストウェイトリフターがベストな理由は、他の要素よりも何より、彼らが最も低くしゃがめるからです。彼らはATGスクワットできるかもしれませんが、誰もができるわけではありません。
完璧を追求するのではなく、「より良い」を追求しましょう。
「最適」なテクニックを見つけようとするのではなく、問題を解決できるようにしましょう。
問題解決能力は、選手もしくはコーチが伸ばせる最も重要な能力です。
足幅やシューズ、つま先の角度、股関節の外転度合い、膝の曲げ具合、バーの位置、股関節と膝どちらを先に曲げるかなど、様々なことを試してみましょう。
試してみて、その方が良いと感じ、その方が重量が上がる、もしくはハードにスクワットのトレーニングができるのであれば(スクワットの目的によります)、それは「より良い」です。
多くの人にとって「より良い」選択かもしれませんし、そうではないかもしれませんが、そんなことは関係ありません。
自分にとって「より良い」、それが重要なことです。「より良い」が自分にできる「最適」なのです。