※文中の画像は全て、原文記事が出典元となります。また、翻訳にあたりポンドをキログラムに変換し調整しています。
序論
多くの人はデッドリフトをするべきです。ポステリアチェーンを発達させ、僧帽筋からハムストリングスまで質の高い筋肉を付けたいと思いますか?デッドリフト以上に適切なエクササイズは無いに等しいです。
自身の運動力を高めながら、スポーツでの怪我のリスクを減らしたいと思いますか?デッドリフトをトレーニングプログラムの中心にするべきです。
※ポステリアチェーン:脊柱起立筋や大殿筋、ハムストリングスなど身体の背部に属する筋群。
そして当然ながら、強くなりたいですか?そうであれば、デッドリフト以上に全身の筋力を作り上げ・テストできるエクササイズは中々ないです(スクワットが同じくらいのレベルで、プッシュプレスがそのすぐ下くらいです)。
もちろん、この記事の読者には言うまでもないことです。この記事を探していたか、たまたま見つけたのだとすれば、すでにデッドリフトが最高のエクササイズであることは知っているでしょう。
主に、デッドリフトのテクニックを向上させることや、より高重量を持ち上げること、より詰まった筋肉質な背中と耳まで届くような僧帽筋を造り上げることに興味を持っているでしょう。
そうだとしたら、あなたはラッキーです。
デッドリフトはあらゆる姿形で存在し、様々なトレーニングの目的に利用できます。このガイドでは、デッドリフトの動きを詳細に分析し、テクニックの最適化とトレーニング最大化の方法について教えます。
初めての方は、「こいつはいったい誰なんだ?こいつの言うことなんか当てにできるのか?」と思ってるかもしれません。
ごもっともな質問です!私は、トレーニングコーチであり、ナチュラルのパワーリフターです。トレーニング歴は12年、コーチングは9年間行ってます。
ジムでは最大333kg(当時109kg だったので自分の体重の3倍以上)、大会では322kg をデッドリフトした経験があります。
様々な経験レベルのリフターをコーチングし、数百の新人リフターにデッドリフトの方法を教えた経験もあれば、272kgレベルや体重3倍を挙上するレベルのデッドリフターを複数人コーチングした経験もあります。
これらに加え、デッドリフトのバイオメカニクスについて綿密な知識も備えています。この記事の最後にある参考文献を見てみてください。
あれだけの科学的文献を読み通していながら、多少の知識をピックアップしてないはずがありません(もちろん、大部分は私のコーチおよびアスリートとしての個人的な経験と一致します)。
自慢するつもりではないのですが、ただそこら辺の男がインターネットでデッドリフトについて主観を述べているだけだと思ってほしくないのです。
少し重いウェイトを挙げられるからって私の言うことすべてが正しいとは言いませんし(自分が世界レベルのデッドリフターだとも言いませんが)、経験を重ねたり、ハイレベルなアスリートやコーチと話し合い、新たに公開される科学的証拠を読むことによって今後の意見が変わる可能性も否定しません。
ガイドに入る前に、最後に一つ:このガイドの範囲はかなり広いです。
全体を通して読むことをお勧めしますが、特に興味がある部分などがあれば、以下の目次を使ってその項目まで飛んでください。
例えば、デッドリフトの「やり方」についての情報を探している場合は、最初にある「物理」や「解剖学」の部分はとりあえず飛ばし、後程戻ってきてもいいでしょう。
超基本的な物理
(上手くいけば)綺麗なデッドリフトを生み出すために、それぞれの筋肉がどのように骨に働きかけているかを説明するためには、いくつかの用語を事前に理解する必要があります。
力学
まず最初に力です。力は質量と加速度によって決まり、ニュートン(Newtons)で計算されることが多いです(1ニュートンは1㎏の質量を1m/秒²で動かすのに必要な力です)。
私たちの目的にとって最も重要な点は、力は直線的であるというところです。物が直線的に引っ張られたり押されたりすることを示しています。
300㎏のバーベルを背負っているとしましょう。その300㎏が質量となります。
もしバーベルを支えてないとしたら、一秒あたり9.8mのスピードで下に落ちていくため(重力により)、300㎏ x 9.8m/秒² = 2940Nの力が身体にかかることになります。
力の方向は重力と同じ、つまり真下です。同様に、筋肉が収縮した時は、筋肉の端を反対側に真っすぐ引っ張る力が働きます。
モーメント
次にモーメントです。モーメントは軸に対してかかる力のことで、ニュートンメートル(Newton-Meters)で計算されることが多いです。
かかっている力に対して、力のかかっている方向に対する軸からの垂直距離をかけると計算できます。力が直線的な一方で、モーメントは回転性となります。
20㎏のバーベルカールをやっているとしましょう。上腕が真っすぐ身体の横にあり、前腕(長さ30㎝)が地面と水平だとします。この時にバーベルがかけている力は上記と同じように計算できます。
20kg x 9.8m/秒² = 196Nの力が真下にかかっていることになります。
そしてバーベルが肘にどれくらいのモーメントをかけているか計算するには、1バーベルと肘の距離(モーメントアームといいます)に196Nをかけます。つまり、196N x 0.30m = 58.8Nmです。
このモーメントは下向きであり、肘を伸展させるため、伸展モーメントと呼ばれます。
上向きにカールをするのであれば、58.8Nmより大きい屈曲モーメントを上腕二頭筋と上腕筋から生み出さなければいけません。
モーメントアームは、力が働いている方向に対して垂直な回転軸と重りとの距離であるため、肘が少し屈曲していたり伸展していたりすると、前腕の長さが同じであっても、モーメントアームは短くなりモーメントも小さくなります。
筋骨格の重さによってかかるモーメントは外部モーメントと呼ばれ、筋肉が骨を引っ張ることで生まれるモーメントは内部モーメントと呼ばれます。
内部モーメントは外部モーメントと同じ方法で計算できます。力は筋肉の収縮であり、モーメントアームは動作する関節の回転軸と筋肉の距離です。
例えば、膝蓋腱(大腿四頭筋から脛骨に力を伝える)が膝の中心から5cmの距離にあり、大腿四頭筋が脛骨に対して10,000Nの力を発揮した場合、内部伸展モーメントは、10,000N x 0.05m = 500Nmとなります。
身体を動かすためには、筋肉が収縮します。そうすることで、直線的な力が生まれ、骨を引っ張るレバーとなり、交差する関節において屈曲もしくは伸展モーメントを発生し、関節は回転軸となります。
デッドリフトの場合基本的には、バーベルと自重によって膝と股関節・脊柱にかかる屈曲モーメントを超える、伸展モーメントを生み出そうとします。それができれば、バーベルによって身体にかかる力を超える力を生み出し、見事デッドリフト 成功です!
これらをまとめると、いくつかのかなり基本的な規則がわかります。
- デッドリフトでは、重り(バーベルと自重)が下向きの力を発揮し、外部屈曲モーメントを股関節と膝と脊柱にかけます。
- 重りをあげるために必要な外部屈曲モーメントの大きさは2つの要因によって左右されます。重量そのものと、モーメントアームの長さです。重量が増えてモーメントアームが同じ長さのままの場合、重量は同じでモーメントアームが長くなった場合、もしくは重量が増加しモーメントアームも長くなる場合に、筋肉はより大きな外部屈曲モーメントに打ち勝たなければなりません。なので、低重量よりも高重量の方が難しく(当たり前)、デッドリフトが苦手な体型の人(一般的には腕が短いため腰を下げてよりバーベルの後ろ側に行かなければいけない人)が苦戦するのです。
- 重りをあげるために必要な内部伸展モーメントを筋肉が発揮できるか定める2つの要因は、筋肉の付着部とそれらの筋肉が収縮する力になります。
- 筋肉は基本的に関節の非常に近くに付着しているため、若干の差でも影響が大きく、筋肉付着部は重要な役割を果たします。例えば、膝蓋腱モーメントアームは4cm7009)によってわかっています。前述した例のように500Nmの膝伸展モから6cmと多様であるとこちらの研究によってわかっています。前述した例のように500Nmの膝伸展モーメントを生み出すためには、モーメントアームが6cmの人の大腿四頭筋の場合、8333Nの力を垂直に脛骨に加えるほど収縮しなければならず。モーメントアームが4cmの場合はさらに50%強く収縮しなければ同じ膝伸展モーメントを生み出せません、つまり12,500Nです!
- 残念ながら、筋肉付着部は変えることができないため、自分で変えられるのは筋肉の収縮力のみです。その方法は2つ存在します。1)今ある筋肉でより大きな力を出せるようにデッドリフターとしてスキルを磨く、2)筋肉量を増やす、です!
本当はもう少し複雑ではありますが、これで説明に使用する基本的な用語は理解できると思います。まだ少し理解できない場合は、この非常に良い物理の教科書を(合法で)無料ダウンロードできます。
それでは、デッドリフトに重要な筋肉や骨について見ていきましょう。
解剖学
デッドリフトは全身種目なので、様々な筋肉や骨が関わっています。しかしながら、大きな影響がある、もしくはパフォーマンスのボトルネックになるのは、その内のいくつかだけです。
簡単にするために、4種類の骨(骨のグループ)、7種類の筋肉(筋群)、3種類の関節(関節群)だけを見ていきます。それだけで前章で説明した物理に関わる組織は基本的に理解できますし、デッドリフトのバイオメカニクスについても理解しやすくなります。
脊柱
脊柱は頭の付け根から骨盤上部まで繋がっていて、24個の脊椎骨から構成されています。その脊椎骨は、3種類に分類されます。首に7個の頸椎、首の付け根から肋骨の下部までに12個の胸椎、肋骨下部から骨盤上部までに5個の腰椎が存在しています。
脊椎骨が繋がる部分はあまり動きませんが、小さい動きが重なって非常に大きな屈曲や伸展、回旋、水平屈曲を可能にします。
脊柱には元から3つの曲線が存在します。腰椎は前弯(前方へ曲がっている)、胸椎は後弯(後方へ曲がっている)、そして頸椎は前弯です。脊柱の屈曲や伸展の話をするときは、この元々の曲線をベースとして話をしています。
脊柱がこのベースよりも前方に曲がった場合は、屈曲です。屈曲された状態からベースに戻るときは、伸展です。ベースの自然な曲線からさらに反った状態に動くのは、過伸展です。
例えば、胸椎が完全に真っ直ぐな場合は過伸展、背中が丸まっている場合は屈曲です。腰椎が完全に真っ直ぐな場合は屈曲、反っている場合は過伸展になります。
脊椎骨の間には、脊柱のクッションとなる椎間板があります。椎間板は圧縮力(重量や脊柱起立筋収縮によって椎間板同士が押される状態)に対しての耐久力が非常に強いです。
しかしながら、重量・前傾度合い・脊柱の屈曲度合いによって椎間板が前後にスライドする、せん断力には問題があります。脊柱が過剰に屈曲しない限り、元々腰に問題を抱えていなければ、デッドリフトの重量に対しては問題なく耐えられるでしょう。
適切なフォームのデッドリフトでは、屈曲や過伸展は一般的に起こるべきではないですが(特に腰椎において)、デッドリフト上級者の場合は重量を伸ばすために多少胸椎を屈曲させても、必要以上に怪我のリスクが増えることはありません(詳しくは後述します)。
しかしながら、特にデッドリフトが初めての場合は、脊柱は常に伸展して固め、脚と股関節からの力をバーベルに伝えるべきです。
骨盤
骨盤は6つの骨から構成されていて、それぞれに目的があって繋がっています。両側に腸骨、坐骨、恥骨があります。腸骨は骨盤の上部にある、腹斜筋の真下に出ている骨です。坐骨は後ろ側の骨盤下部に存在し、恥骨は鼠蹊部あたりである前側の骨盤下部にあります。
これら3種類の骨が結合している部分を、寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれ、大腿骨が骨盤に繋がるヒップソケットになります。寛骨臼が骨盤の前側に位置するか、より横側に位置するかによって、スモウデッドリフトかナローデッドリフトの向き不向きに影響してきます。
この他にも、骨盤には2つの特徴が存在しています。下前腸骨棘(かぜんちょうこつきょく)は大腿直筋(大腿四頭筋の1つ)の起始部で、坐骨結節はハムストリングや大内転筋の起始部です。
大腿骨
大腿骨は太腿の骨で、股関節から膝まで繋がっています。
大腿骨は主に4種類の部位に分かれます。骨頭、頸部、骨幹部、顆部です。
大腿骨骨頭は寛骨臼(ヒップソケット)に入る部分です。頸部は骨頭と骨幹部を繋げる役割を果たします。頸部と骨幹部が繋がるあたりに坐骨大結節と小結節があり、内転筋や回旋筋群の停止部となります。
広筋(大腿直筋を除いた残り3つの大腿四頭筋)は、大腿骨骨幹部が起始部で、大殿筋は骨幹部後部・側部が停止部です。大腿骨の長さは、膝と股関節のモーメントアームに大きく影響します。
※起始部:身体の中間から最も近い筋肉の付着部。 停止部:身体の中間から最も近い筋肉の付着部。
大腿骨顆部は、膝と繋がる大腿骨下部に位置します。半月板(膝関節の軟骨組織でできたパッド)で衝撃が吸収されていて、4種類の主要な膝の靭帯によって脛骨に繋がっています。
前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、内側側副靭帯(MCL)、外側側副靭帯(LCL)です。また、腓腹筋(最も大きなふくらはぎの筋肉)も大腿骨顆部の真上が起始部になっています。
脛骨と腓骨
脛骨と腓骨は下腿の骨であり、膝から足首まで繋がっています。
脛骨にも顆部が存在し、膝関節で大腿骨と繋がります。
ハムストリングは脛骨顆部真下の腓骨上部が停止部で、ヒラメ筋(腓腹筋と対をなす主要なふくらはぎの筋肉)が脛骨と腓骨上部の後ろ側が起始部になります。
椎間関節
椎間関節は脊椎骨の間にある関節のことです。以下、前述したことの復習です。椎間関節は椎間板というクッションが存在していて、屈曲や伸展、回旋、水平屈曲の可動域はあまり大きくありません。しかしながら、小さな動きが重なることで脊柱全体での大きな可動域を生み出します。
股関節
股関節はボールとソケットによって構成されていて、屈曲(膝を胸に近づける)、伸展(膝を床に近づけたり後ろに振る)、外転(膝を身体の中心から遠ざける)、内転(膝を身体の中心に近づける)、回旋(内旋は大腿骨前部が身体の中心に近づき、外旋は大腿骨前部が身体の中心から遠ざかる)など全方位への動きを可能にします。
解剖学的な骨盤、ヒップソケット、大腿骨の違いによって、それぞれの動作の可動域の大きさが大きく変化します。
膝
膝はちょうつがいの関節であるため、主に屈曲(レッグカール)と伸展(レッグエクステンション)しか出来ません。若干の回旋や外転、内転は出来ますが、角度が数度を超えると半月板や靭帯に過剰な負荷をかけることとなります。
膝蓋骨(膝の前側にあるこぶのような骨)は、膝を伸展させる脛骨を引っ張る動作において大腿四頭筋のてこの力を強めます。
脊柱起立筋
この筋群を構成する筋肉はいくつか存在しますが、実質的にどれも働きは同じなので、個別に見ていく必要はないでしょう。
脊柱起立筋は骨盤上部と肋骨、そして最も重要な脊柱に付着しています。どの筋肉も収縮時に脊柱を伸展させる働きです。
それぞれ個別の筋肉はいくつかの脊椎骨しか跨っていないため、脊柱の部位毎の筋力は個別の対応が必要です。胸部の起立筋(背中上部)は強くても腰の起立筋は弱いケース、もしくは反対のケースなどがあり得ます。
「体幹」
体幹は、脊柱起立筋程には直接的に関わらないものの、首から股関節にかけて存在している胴体を固める筋肉全てを包括的に示しています。つまり、腹斜筋や腹横筋、腰筋、腰方形筋、僧帽筋(とその他の肩帯を支える筋肉)です。
スクワットのガイドにて、広背筋もここに含めましたが、デッドリフトでは個別に解説が必要なレベルで重要なので外しました。
現実的に考えて、これらの筋肉は個別に重要な役割を果たしている訳ではないので、それぞれ説明する必要はないです。脊柱を固く安定させるために脊柱起立筋をサポートできればいいだけです。腹斜筋や腹横筋、腹直筋の場合は、横隔膜と骨盤底の力による腹圧上昇も含まれます。
大殿筋
大殿筋は最も強い股関節伸展筋です。腸骨の後部から起始し、大腿骨の後・側部と腸脛靭帯に付着しています(脚の側面に位置する非常に太い結合組織)。
「起始」は身体の中間に最も近い付着部を示し、「停止」は身体の中間から最も遠い付着部を意味します。筋肉が収縮するときは、この起始部と停止部がお互いの方向に引っ張られて近づくように動きます。
ハムストリング
ハムストリングには3種類の筋肉があります。大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋です。しかし私たちの目的からいうと全て同じ作用なので、そもそも説明する必要がない大腿二頭筋の短頭を除いて(膝の屈曲として働かないため)、1つの筋肉として解説します。
これらの筋肉は坐骨結節に起始し、脛骨と腓骨上部に近い膝下が停止部です。股関節と膝関節両方にまたがっているため、股関節伸展(デッドリフトに必要な動作)と膝関節屈曲(デッドリフトでは避けたい動作)の両方を行えます。
停止部が膝よりも股関節から離れているため(内部モーメントアームが股関節でより大きい)、収縮時に膝関節屈曲モーメントよりも大きい股関節伸展モーメントを生み出します。
大内転筋
デッドリフトにおける内転筋の働きは小さいですが、その中でも一番重要なのが大内転筋です。ハムストリング同様に坐骨結節が起始部となり(恥骨にも繋がっている)、強い股関節伸展筋であるため、「第四のハムストリング」とも呼ばれることがあります。
ハムストリングと違い、大腿骨後部の骨粗線に停止するため、膝関節をまたがらず膝屈曲モーメントは発揮できません。
大内転筋は十分に注目されていないと感じます。股関節伸展となると、大臀筋やハムストリングを思い浮かべる人が多いですが、大内転筋を思い浮かべる人はほとんどいません。
つまらない詳細を説明するつもりではないですが、非常に大きな筋肉で構造的にも股関節伸展モーメントを生み出すのに有利な位置にあります。
直接研究されているケースが少ないというだけで、最近の研究では、スクワットのボトムで大臀筋とハムストリングの合計よりも大きな股関節伸展モーメントを生み出すだろうと示されています。デッドリフトでも重要だと考えない理由がないでしょう)、それが理由で見過ごされがちなのだと思います。
大腿四頭筋
新たな研究によって、今まで気づかれていなかった5個目の筋肉が大腿前部にあることが判明したため、本来は大腿五頭筋と呼ぶべきかもしれません。しかしながら、聞こえが悪いので四頭筋として続けます。
大腿四頭筋のうち3種類、外惻広筋、中間広筋、内側広筋は同じものとして解説できます。大腿骨の骨幹部に起始し、脛骨の上部にある脛骨結節部(膝の真下でスネの上部にある凸部)に停止します。これらの役割は膝の伸展だけです。
4つ目は少し違います。大腿直筋は実質ハムストリングの反対です。停止部は他の大腿四頭筋のように膝蓋骨を通して脛骨結節部ですが、起始部は腸骨の下前腸骨棘(股関節の真上)です。つまり、股関節屈曲と膝関節伸展の両方を行えます。
しかしながら、ハムストリングが膝よりも股関節で長い内部モーメントアームを持ち、膝関節屈曲よりも股関節伸展に向いているように、大腿直筋は股関節よりも膝で長い内部モーメントアームを持ち、股関節屈曲よりも膝関節伸展に向いています。
広背筋
最後に説明する筋群は広背筋です。
広背筋は骨盤上部、腰背筋膜、脊椎骨下部10〜11個、肋骨下部3〜4個に起始しています。停止部は上腕骨上部の結節間溝、胸筋の真横、そして一部の人は肩甲骨下部となります。
広背筋は肩の内転をサポートし、また非常に強力な肩の内旋筋です。しかしながら主要な役割は肩の伸展、つまり腕が頭の上に上げられている状態から考えて、身体の横に腕を下ろす動きになります。
これで物理と解剖学については十分でしょう。デッドリフトの動作を行う際の基礎的な力学や、関係する主要筋群、骨、関節について理解できているはずです。
バイオメカニクス
ここからは少し専門的になってきます。
面
本章の内容を少し簡単に理解できるようにするためには、運動の面について理解する必要があります。主に3種類の面が存在します。矢状面、前頭面、横断面です。矢状面は上下前後に断面をつくり、屈曲や伸展が起こる場所です。前頭面は上下左右に断面をつくり、外転や内転が起こる場所です。横断面は前後左右に断面をつくり、回旋が起こる場所になります。
※矢状面:Sagittal plane。前頭面:Frontal(Coronal) plane。横断面:Transverse plane。
大事なポイントが2つあります。内転・外転・回旋は、胴体に対しての前頭面と横断面によって決まります。一方で、屈曲と伸展はそれが起こる骨と関節に対して決まります。
デッドリフトにとって一番重要な点として、股関節と膝関節の屈曲と伸展は、大腿骨に対しての矢状面によって決まります。大腿骨を上下前後にする断面を想像してください。
膝がまっすぐ前を向いている場合は、大腿骨に対する矢状面が胴体に対する矢状面と平行の可能性があり、膝と股関節の屈曲伸展負荷は挙上を真横から見ればほとんど正確に評価できるでしょう。
しかしながら、股関節が外転外旋している場合、大腿骨に対する矢状面は胴体に対する矢状面を横切ることとなり、真横から見るだけでは膝と股関節の伸展負荷を正確に計算できません。2次元ではなく3次元に考えて膝と股関節の伸展負荷を評価する必要があります。
Escamillaの研究は、デッドリフトを分析する際に単純に2次元に膝と股関節の伸展負荷を計算すると大きな誤差が発生してしまうと示しています。
簡単に考えるとこんな感じです。世の中には恐らく1,000種類のアームカールが存在します。バーベルカール、コンセントレーションカール、プリーチャーカール、その他諸々です。カールが純粋な肘関節の屈曲伸展ではない、と主張する人はいないと思います。
しかしながら、肩が内旋すると(コンセントレーションカールのように)、前腕が身体に対して前頭面で動きます。これに対して、コンセントレーションカールは肘の外転内転だと主張する人はいないでしょう。
なぜなら肘の屈曲伸展は上腕骨に対して決まるものであって、カールは必ず上腕骨に対して矢状面で行われるからです。全く同じ原理がデッドリフトでも働きます。
デッドリフトで要求されること
デッドリフトを上げるためには4つの要素を乗り越えなければなりません。脊柱屈曲モーメント、股関節屈曲モーメント、膝関節屈曲モーメント、そして当たり前ですが、バーベルを落とさないことです。(グリップに関しては別途解説します。)
バーベルと椎間関節間の(胴体に対する)矢状面の水平距離(重力に垂直)が長くなるほど、脊柱屈曲モーメントは大きくなります。
胴体が傾いたり胴体が長いほど、脊柱伸展負荷は大きくなります。それが理由で、ナローデッドリフトはスモウデッドリフトに比べて背中の筋力が制限因子になりやすいのです。ナローデッドリフトでは胴体がより前傾しているからです。
ナローデッドリフトでは、膝と股関節伸展負荷はいたってシンプルです。
膝伸展負荷は非常に小さいです。ナロースタンス(脚を寄せて膝の外側に腕を下ろす)の人にとって、大腿四頭筋の筋力によって最大重量が制限される可能性はかなり低いでしょう。膝伸展の外部モーメントアームは、重心(大体足の中心上)から膝までの前後の距離であり、膝はあまり前に出せないため、モーメントアームも非常に小さくなります。
膝が前に出すぎると、バーを上げる際にスネが邪魔になってしまい、バーを前に流すか(膝伸展負荷は下がるがバランスが崩れる)、膝を後ろに引くか(膝伸展負荷が下がる)のどちらかが起こります。
スネを完全に垂直な状態でデッドリフトをする場合は、膝がバーの上もしくはバーより前で挙上するよりも膝伸展負荷は小さくなりますが、もともと膝伸展負荷は非常に小さいです。
ナローデッドリフトにおける大腿四頭筋の主要な役割は、ハムストリングの収縮に対抗するために脛骨を固定し、膝を伸展し続けることです。ナローデッドリフトでは、デッドリフトの重量そのものよりもハムストリングの方が大腿四頭筋に負荷を生み出しているでしょう。
ナローデッドリフトの股関節伸展負荷も単純で、バーベルの重量と重心(改めて、基本的に足の中心上)から股関節までの距離によって決まります。
股関節とバーベルとの距離が遠いほど、股関節伸展筋への負荷が大きくなります。セットアップの仕方(後述します)によって股関節伸展負荷は変化しますが、最も大きい要素は元々の骨格です。
大腿骨が長く(または)腕が短い人は、(その他の条件が同じだとして)挙上開始時に胴体をより前傾させる必要があるため、股関節がバーベルから遠くに離れることになります。
一般的には、股関節伸展負荷は開始時に一番大きく、挙上するにつれて小さくなっていきます。膝をバーの上、もしくはバーの前から挙上開始した場合、バーが浮上した時に股関節が後ろに下がり股関節伸展負荷を増やすかもしれませんが、全体としては最初の1/3までが股関節伸展筋にとって一番厳しい部分です。
スモウデッドリフトの場合、膝と股関節伸展負荷はもう少し複雑になりますが、そこまででもありません。(専門的な解説になると厄介ですが、実践的にはかなり直感的です。)
はじめに、膝と股関節伸展負荷は大腿骨に対する矢状面(前後)によって決まるものであり、胴体に対する矢状面ではないことを覚えておいてください。
真横からスモウとナロースタンスを見比べて、股関節からバーベルまでの距離がスモウの方が短いため、スモウデッドリフトはナローよりも股関節伸展負荷が小さいと結論づけてしまいがちなため、上記は非常に重要なポイントになります。
しかしながら、胴体に対する矢状面ではなく大腿骨に対する矢状面での股関節伸展負荷を分析すると、デッドリフトのスタンスによって股関節伸展負荷が大きく変わることはないとわかります。大腿骨の矢状面での股関節から重心(非常に重いデッドリフトでも大体バーベルの位置)の距離がほとんど同じだからです。
次に考えなければいけないのが、横方向の力です。2つの要素の内、より専門的な方になります。スモウデッドリフト、特にかなり広めなスタンスでは、脚でただ単に真下に向かって押すだけではありません。
同時に脚で床を半分に割くように力を加えます。結果として、脚と股関節を使って垂直および横方向両方に力を発揮することになります。そのため、力のベクトルは真上ではなく(ナローデッドリフトのように)、上向きおよび身体の中心線に向かいます。
私の知っている限りでは、横方向の力の大きさと垂直方向の力の大きさの内、どちらの方が影響が大きいのか比較したデータは世の中にありません。
しかし、この横方向の力は膝伸展負荷を高め、股関節伸展負荷を弱めます。要するに、これらの力によって大腿四頭筋が臀部やハムストリング、内転筋をサポートするのです。
もし私のベンチプレスガイドを既に読んでいたら、聞き覚えがあるかもしれません。スモウデッドリフトにおける大腿四頭筋の役割は、ベンチプレスにおける上腕三頭筋の役割に非常に似ています。
ベンチプレスの場合、上腕三頭筋による横方向の力によって水平屈曲負荷が減るため、胸筋をサポートできます。この働きは、デッドリフトにおいて大腿四頭筋が股関節伸展筋群をサポートするのに類似しています。
これら2つの影響を考慮すると、スモウデッドリフトの股関節伸展負荷はナローデッドリフトの時とほとんど同じになります。スモウデッドリフトでは一般的に股関節が若干低い位置でスタートし、大腿骨が地面と平行に近づくことで、外部股関節伸展モーメントを大きくします。
しかしながら、大腿四頭筋と外転筋による横方向の力が股関節伸展モーメントを小さくするとともに、膝伸展モーメントを大きくします。それにより、大腿骨の角度の違いによって生まれる差は実質無になると考えられます。
つまり結局は、ナローデッドリフトにおいて股関節伸展負荷を大きくする要因(長めの大腿骨や短めの腕)は、スモウデッドリフトにおいても同じ影響があり、これら2つのスタンス間の股関節伸展負荷の差は無視できるレベルとなります。しかし、膝伸展負荷はスモウデッドリフトの方がはるかに大きく、どれくらいの横方向の力が加わるかによって大きく変化するでしょう。
また、ナローデッドリフトよりもスモウデッドリフトの方が大腿四頭筋にとってきついとは言いつつも、大腿四頭筋が制限因子になることはまずないでしょう。
Escamillaによる2つの研究では、経験者の1RMにおいて、スクワットの方がスモウデッドリフトよりも約15%膝伸展負荷が高かったので、大腿四頭筋の筋力によってスモウデッドリフトの重量を制限することは考えにくいですが、人によってはあり得るかもしれません。
そしてもちろん、膝、股関節、脊柱伸展負荷はバーベルに重量を足していく程大きくなりますが、この部分は明白はなずです。
デッドリフト:セットアップとテクニック
高重量を引けるかは、もちろん必要な力を発揮できるほど筋肉ごりごりで十分な筋力量があるかどうかに左右されます。また、ビッグ3の中でデッドリフトが最も技術のいらない種目であるだろうという点も躊躇なく認めます。
しかし、デッドリフトのパフォーマンスと安全性を最大化するためには、デッドリフトのセットアップとテクニックに適度に取り組むことが最重要です。
スモウとナローデッドリフト間では重要なテクニックの差がいくつかありますが、どちらのスタンスにも熟達することが大事、少なくとも便利だと思います。
ナローデッドリフトのテクニックの方が少し単純なため、セットアップと挙上に関する次の数章ではナローデッドリフトをベースにします。各章の終わりに、スモウデッドリフトがナローとは異なる点を解説します。
足幅
最優先のタスクは、理想的な足幅を見つけることです。
一般的に見つける方法として、最初は垂直跳びをして自然にとる足幅が最適です(この方法に関してはBrandon Lillyに感謝です)。
この足幅が、あなたの身体にとって狭い足幅で垂直方向の力を発揮するのに一番強く快適なポジションになります。まさにナローデッドリフトにて求めていることです。この足幅がベストな足幅になるとは限りませんが、手始めにはもってこいです。
基本的に、足が腰幅くらいの時が一番強く快適に感じると思います。垂直跳びでもナローデッドリフトでも床に対して真っ直ぐ力を発揮しようとするため、理にかなっています。足を腰の真下に位置させることで、それが容易になるためです。
そこからは、少し広くしたり狭くしたりして自分に最適に感じる位置を探しましょう。誰にでも合う足幅はありません。Vince AnelloやLamar Gantのように信じられないくらい強いデッドリフターは、かかと同士がつきそうなくらい狭い幅でやっていたりします。
一方でかなり広い足幅で非常に強いナローデッドリフターもいます。特にデッドリフトが強いことで知られる重量級のストロングマン、Eddie HallやBrian Shaw、Mark Felixなどに特徴的です。身体が大きくお腹が出ていて脚の間のスペースを広げる必要がある人は、身体の小さい人に比べて少し広めの足幅で引くことが多いです。
一番出力が強い足幅を見つけたら、次に考慮する要素はつま先の角度(股関節の外転と外旋)になります。経験談ですが、つま先を少し外側に向けた方が床からの挙上が楽になり、挙上始めのスピードもあがります。
よりつま先をまっすぐ向けるとロックアウトが少し楽になります。完璧な理由は私もわからないです。つま先を外側に向けることで大殿筋が若干短い筋長で始まり(筋長が非常に長くなると、大殿筋の活動が落ちる傾向にあります)、床からの挙上に力を入れやすくなるのかもしれません。
一方でロックアウトでは、つま先をまっすぐしていた方が大殿筋が最大収縮から遠ざかります(筋肉は最大収縮に近づくほど、筋出力が低下する)。つま先を外側に向けてもまっすぐ向けてもあまり差は出ないことは確かですが、自分の苦手な部分をサポートするために調整できる部分です。
足幅:スモウデッドリフトの違い
スモウとナローデッドリフトの一番の違いは足幅であり、その他の違いも足幅によるものです。
ナローデッドリフトの場合、足の外側に手があります。スモウデッドリフトでは、手の外側に足があります。そのため、スモウデッドリフトではだいぶ広い足幅が必要です。
ナローデッドリフトの簡単な足幅の探し方のように(腰幅に足を合わせる、つまり垂直跳びと同様にセットする)、スモウデッドリフトも簡単な見つけ方があります。挙上開始時に膝を外に向けた際に前後から見て、スネが地面と垂直になるように幅をセットしましょう。
ナローデッドリフトで足幅を見つける方法と同様に、これはあくまで最初の目安です。少数派ですがこれよりも狭い足幅が向いている人もいて、また多くの人はより広い足幅の方が強いです。「普通」の足幅に慣れてきたら、少し狭くしたり広くしたり試行錯誤して、一番強く心地よい位置を探しましょう。
スクワットのように、足幅によってつま先の角度を決めてください。足の親指か人差し指と同じ線上に膝が位置するべきです。
中間的なスモウの足幅(肩幅の2倍程度で股関節は45度外転)で引く場合、足も45度程度外に向けましょう。狭めの足幅では、それほどつま先を外に向けないでください。より広い足幅の場合、もっとつま先を外に向ける必要があるかもしれません。
唯一膝をつま先と同じ線上に合わせなくていいのは、非常に広い足幅(プレートにつま先が当たるくらい)でつま先を膝に合わせるとバランスが崩れるケースです。
つま先を外に向けるほど、前後の距離が「短く」なり、フォームが少し崩れた時に前後に倒れてしまいやすくなります。もしそうなる場合は、つま先をもう少し内側に、適度にバランスを保てる場所まで戻しましょう。
グリップ
足のセット(足幅とつま先の角度)ができたら、次はグリップです。
グリップには2つの要素があります。グリップ幅と実際のバーの握り方です。
グリップ幅はいたってシンプルです。膝が内側を向かない、もしくは腕と太腿が過度に擦れないレベルで可能な限り狭い幅で握りましょう。グリップ幅を広くしすぎると、バーの挙上距離が長くなるだけで、効率が若干悪くなります(狭めのグリップよりもスナッチグリップデッドリフトの方が重量の上がる人は見たことがないです)。
太腿に腕が当たっているけれどそこまで押し付けている訳ではない場合、グリップ幅は適切です。
次に考えるのは、どのようなグリップの種類を採用するかです。4種類の握り方が存在します。オーバーハンド、ミックスグリップ、フックグリップ、ストラップです。
オーバーハンドグリップは基本的にうまくいきません。4種類のグリップの中で、オーバーハンドは握れる重量が一番軽いです。
デッドリフトが初めての場合は、自分にとってつらい重量でもオーバーハンドで握れるかもしれませんが、筋力がすぐにグリップ力を上回ってしまいます。そうするとデッドリフトは背中や腰の伸展筋を鍛えるのではなく、グリップを最大限鍛える種目になってしまいます。
ミックスグリップ(オーバーアンダーグリップとも呼ばれる)は競技パワーリフティングの世界で一番主流の握り方です。片方は順手、もう片方は逆手で握ります(片方の前腕は回外、もう片方は回内です。)。この方法では、バーが手の中で回転しにくくなるため、オーバーハンドグリップよりも高重量を握ることができます。
オーバーハンドグリップでは、バーが真下へ動き手を開こうとし、指の方向や身体の方向に回転することでさらに手が開かれます。
ミックスグリップの場合、バーが真下に動いて手を開こうとはするものの、回転して手が開くことはありません。片方の手の中で指の方向に回るときは、反対側の手では手のひらに向かって回っているだけなので、下に回り続けて手が開くのを防げるのです(言い換えると、手首までバーが回って上がって来ない限り、下に回り続けることはできません)。
ミックスグリップを使用する際にありがちな間違いが2つ存在します。
1つ目の間違いは、バーの位置が手の上部過ぎることです。手のひらの奥で握ると、どちらにせよ指までバーは落ちてきて、重量を重くせずとも手を開いてしまいます。そうではなく、指の付け根のマメのちょうど上か下あたりにバーを位置させましょう。
2つ目の間違いは、腕を過度に使ってバーを引くことです。ほとんどの人は腕を使っても大丈夫ですが、そうすることで上腕二頭筋断裂のリスクを高めます。
デッドリフトでの上腕二頭筋断裂は数少ないですが、起こるときは大抵逆手(回外)している腕で、腕を使って引いている場合です。めちゃくちゃ強くバーを握っても、上腕はリラックスさせましょう。デッドリフトなのにロウイングをしてはダメです。
ミックスグリップで引くことで筋肉の左右差が出てしまうと懸念している人も多いです。理由はなんであれ、大体の人は順手側により重量をかける傾向があり、研究()では逆手側ではそれなりの上腕二頭筋活動が確認できています(僧帽筋に差異が出ることを懸念している人もいます)。
デッドリフトが唯一の背中の種目ではないと想定した場合、正直なところほとんど影響はないと考えます。人間は先天的に非対称な生き物です。しかしながら、このことを気にしている場合は、セット毎に左右のグリップを入れ替えればいいだけです。半分のセットでは右手を逆手にし、もう半分では左手を逆手にします。
ミックスグリップを行う際の最後のコツは、必ず必要以上に強くバーを握ることです。90kg引く場合は450kg引くイメージで握れば、90kgちょうどレベルで握った時に比べて挙上が簡単に感じます。
この理由に関しては正直わかりません。Muscle Irradiation(訳注:力を入れた筋肉の周辺にも力が入ること)かもしれませんし、固有感覚フィードバックに関係しているかもしれませんし、ただ単に精神的なものかもしれません。効果のある理由にかかわらず、魔法のように効きます。#脳筋アドバイス
フックグリップは3番目に主流な握り方です。ウェイトリフティングでは一般的に使用されていますが、パワーリフティングでは最近になって使用者が増えてきました。
フックグリップではオーバーハンドで握り、その後親指を他の指で包み込み、指とバーの間に固定します(指の上に親指を乗せるのではなく)。
指が十分に長ければ、フックグリップはミックスグリップよりも高重量を握れるでしょう。また、両方の腕を回内した状態で握れるため、筋肉の左右差や上腕二頭筋断裂というリスクも実質的に無くなります。
フックグリップには2つの難点があります。
- 指が十分に長くないと、フックグリップの「セット」がうまくいかない可能性が高い。
- 痛い。かなり。
2つ目の難点が、フックグリップが人気ではない主要因です。フックグリップの頻度を増やすにつれて、親指の徐々に神経が死んできて少し楽にはなります。しかし、最初は地獄です。親指は毎レップ潰されるのがあまり好きではありません。
とはいえ、最初の不快さを耐えてフックグリップを習得すれば、デッドリフトでグリップ関連の問題に直面することはなくなります。フックグリップをうまくセットできれば、基本的に無限の重量を耐えられます(若干誇張しています)。
最後に、ストラップを使用したデッドリフトです。ストラップはミックスグリップと同じ原理で働きです。バーが回って指先に落ちようとすると、ストラップに回って「上がり」、回転することなく真下にのみ力が働き、落とそうという時だけ握りが開きます。ストラップの使い方に関しては、本ガイド内で後述します。
グリップ:スモウデッドリフトの違い
グリップの種類(オーバーハンド、ミックス、フックグリップ)の情報に関しては、ナローデッドリフト同様のことがスモウデッドリフトにも言えます。
スモウとナローデッドリフトの握り方の一番大きな違いは、スモウの場合膝が腕の邪魔をすることがない点です。そのため、より狭い幅でバーを握れます。肩の真下に手が来るようにに握りましょう。こうすれば腕が「一番長い」状態になり、挙上距離を最小化できます。
肩の真下に手を位置させたらバーの滑らかな部分になってしまう場合、手がローレットの始まりに来るまでグリップ幅を広げた方がいいでしょう。挙上距離は若干長くなりますが、バーを保持するのが簡単になるため、2〜3cm挙上距離が伸びてしまう点も補えます。
呼吸
次の要素はデッドリフトにおける正しい呼吸方法です。呼吸や胴体を固めることについてより詳しい解説を読みたい場合は、スクワットガイドの同じ章を確認してください。
しかしながらデッドリフトにおける一番重要な要素は、胸式呼吸ではなくて(肋間筋や斜角筋のように補助的な呼吸筋群に頼り、呼吸によって胴体が拡がらない)、しっかりと深い腹式呼吸(お腹や腹斜筋に空気を吸う)を行うということだけです。
その深い腹式呼吸を行った状態を挙上中はキープして、バルサルバ法を実施します。息を吐き出して新たに呼吸が必要な場合は、トップかバーを床に置いたレップ間にて行いましょう。そうすることで腹圧が高まり、脊柱がサポートされるため、怪我のリスクが少し下がります。
その点以外では、ほとんどの人がデッドリフトの際に上手く胴体を固められています。非常に「自然」な動きだからです。地面から何かを拾うことは生涯ずっとやっているため、その動きで胴体を固めるのは大体の人にとって簡単です。
やり方がわからない人に関しては、動作を習得するために人それぞれ別々の対応をしなければいけない傾向にあります。
しかしながら、一般的な推奨方法としては、腹式呼吸をした後にお腹をパンチされるかのように固めれば、比較的いい具合に胴体を固めることができ、デッドリフトを練習するにつれて固め方も上手くなっていくでしょう。
バーを握ってから深く呼吸するのが最適だと感じる人が多いですが、それでは深い呼吸ができないと感じる場合は、立っている状態で呼吸して、素早くセットアップした方がいいかもしれません(頭がふらふらする前に)。
このやり方に関しては両方のデッドリフトスタンスに当てはまります。
デッドリフトのセットアップ:基本的な戦略
これで簡単な部分はおしまいです。バーのどこを握るか、どんなグリップを使うか、どのように腹圧をかけるかは理解しているはずです。次は実際にどのようにセットアップするのか学びましょう。
私の中では、ナローデッドリフトのセットアップの方法として主に6種類あります。主流でやりやすい方法から順番に紹介していきます。最初に言っておきますが、特にどのやり方が良い、悪いということはないと思います(そのやり方に慣れれば)。
個人の好みの問題です。もし強くガッチリとして安定したセットアップができていないと感じているのであれば、他のやり方を試してみてもいいかもしれません。
テクニック1:ハムストリングにテンションをかけて、バーに近くにつれて背中を固める。
ステップ1:バーに近づき、足をセットします。その時、バーはスネから2.5〜5cm離れていて、大体靴紐の結び目の上に位置するべきです。
ステップ2:お尻を後ろに突き出し、若干膝を曲げながらバーを握ります。この時にハムストリングにテンションを感じているはずです。
ステップ3:深く腹式呼吸を行い、体幹部を固めます。(この段階で深い呼吸が出来ないと感じる場合は、ステップ2と3を入れ替えてください)
ステップ4:ハムストリングのテンションを保ったまま、脊柱を伸展させながらお尻を後ろに突き出し、下げていきます。弓を放つ前のように、引き始めた瞬間に跳ね返るレベルでハムストリングに重量をかけている感覚があるでしょう。
ステップ5:胸を高く張り、焦点を定めて、引きます。
このテクニックは、デッドリフトが純粋な股関節動作である人にお勧めです。胴体に比べて手足が長く、デッドリフトでお尻の位置が高くなる人に多いでしょう。
テクニック2:背中を固めた状態で始め、バーにしゃがむ際に「バネを縮める」
ステップ1:バーに近づき、足をセットします。その時、バーはスネから2.5〜5cm離れていて、大体靴紐の結び目の上に位置するべきです。
ステップ2:脊柱を固め、胸を張り、股関節から曲げて、バーを握れるところまで膝を曲げます。
ステップ3:深く腹式呼吸を行い、体幹部を固めます。(この段階で深い呼吸が出来ないと感じる場合は、ステップ2と3を入れ替えてください)
ステップ4:背中を真っ直ぐ固めたまま、お尻の位置を下げていきます。引き始めた瞬間に跳ね返る感じでバネを縮めているかのように、脚全体(ハムストリングだけでなく)を圧縮するような感覚があるでしょう。
ステップ5:焦点を定めて、引きます。
このテクニックは手足が短くでお尻の位置が低くなり、床からバーを上げる際に大腿四頭筋に頼る人にお勧めです。
テクニック3:バーの上でセットアップし、お尻を後ろに動かしてポジションに入る。
ステップ1:バーに近づき、足をセットします。その時、バーはスネから2.5〜5cm離れていて、大体靴紐の結び目の上に位置するべきです。
ステップ2:脊柱を固め、胸を張り、股関節から曲げ、バーベルまでしゃがむために膝を曲げます。そして足の前側およびバーベルの前側に重心を置きながら、バーを握ります。
ステップ3:深く腹式呼吸を行い、体幹部を固めます。(この段階で深い呼吸が出来ないと感じる場合は、ステップ2と3を入れ替えてください)
ステップ4:お尻を後ろに動かし、足の中心およびバーの真上に重心を移動します。
ステップ5:焦点を定めて、引きます。
このテクニックは前述した2種類の動作が多めのテクニックで安定しない人にお勧めです。身体にテンションがかかっていない状態でセットアップできるため、自分に適切なお尻と膝の位置を見つけやすいです。その後は、重心を後ろに少しだけ動かせば引く準備はできています。
テクニック4:お尻が低い位置から始まる「クリーンプル」スタイル
ステップ1:バーを握って脊柱を伸展させた状態でスクワットするようにしゃがみ、重心をバーの後ろに置いてスネにバーを当てます。
ステップ2:深く腹式呼吸をします。
ステップ3:脊柱を伸展させたまま、床を脚で押します。お尻は自然と上がり、重心もバーの真上になるまで前に移動します。そのタイミングでバーが床から離れます。
このテクニックはウェイトリフティングの経験がある人にとってより自然に感じるかもしれません。パワーリフティングではあまり主流ではなく、(個人的には)最初にあげた3つのテクニックと比べると身体を固めにくいですが、やりたいことは達成できます。
テクニック5:握った瞬間に引く
ステップ1:バーに近づき、深く呼吸をして、股関節から曲げてバーに近づき握ったら引き始めます。
初心者にはこのテクニックはお勧めできないです。脊柱を伸展させ固めることを意識しなければいけない段階では、握って引く方法だと挙上開始前にセットアップがしっかり出来ているか確認する時間がないです。
しかしながら、デッドリフトの経験が長く習慣となっている人には効果的にもなり得ます。このテクニックでは挙上開始までに考える時間が無くなるため、デッドリフト前に気合いを入れるタイプの人にも向いています。
このテクニックによって床からの挙上に勢いがつくと言う人もいます。伸張短縮サイクルを活用しているのでしょう。
テクニック6:バーを転がす
ステップ1:一般的な立ち位置よりもバーの後ろに立ちます。この時バーはスネから少なくとも10〜15cm離れているべきです。
ステップ2:前方にしゃがんでバーを握ります。そして深く腹式呼吸をします。
ステップ3:脊柱を伸展させ、お尻を下ろしながらバーを自分に近くように転がします。バーがスネに近づいて重心がバーの上になった瞬間に、引き始めます。
この方法も、デッドリフト経験が長くこのテクニックが習慣となった人にとっては実行可能です。しかしながら、必要のないタイミングといった要素が足されるため(バーが前後狂わず最適な位置に来た時に挙上開始する)、経験の浅い人には不必要に複雑になってしまいます。
握った瞬間に引くテクニックと同様に、気合いを入れてデッドリフトするタイプの人には便利です(バーがポジションに来たら引かないといけない)。セットアップに時間がかかり、それに加えて立っている状態で息を吸えないが(長時間息を止めることになり頭がくらくらする)、前述した4種類のテクニックでは深く呼吸できないと感じる人にとっても効果的です。
バーが少し前側にある状態でセットアップするため、バーを握る際にそこまで身体を屈曲させる必要がなく、少し楽に深く呼吸できます。
セットアップ:スモウデッドリフトの違い
スモウデッドリフトの場合はセットアップの種類が少なくなります。
最も一般的である2つの方法は、上記のテクニック1と2を模倣しています。スモウデッドリフトではナローデッドリフトほどミスが許されないです。
高重量ナローデッドリフトで少しテクニックをミスっても、どうにか挙上できることが多いです。しかしながらスモウデッドリフトでミスると、特に床から浮いた直後の場合、高重量では大体失敗してしまいます。
テクニック1(ハムストリングにテンションをかけてから、お尻をバーに下げていくと同時に背中をポジションに持ってくる)とテクニック2(背中のアーチを作った後に、お尻をポジションに下げる)だと動く部分が少ないため、スモウデッドリフトに最適であることが多いです。
バーはセットアップ中同じ位置にあり(ナローで転がす方法とは違い)、お尻を上げるのではなく正しいポジションにすぐに下ろせて(クリーンプルスタイルとは違い)、意図的にバランスを探して正しいポジションを確認できます(握った瞬間に引くのとは違い)。
テクニック1と2のセットアップの仕方は、1点を除いてナローデッドリフトと同じです。お尻をポジションに下げる時に、床を足の間で半分に割くように意識しましょう。
地震によって地面が足の間で割け、股関節を使って足を左右に広げ地面を開こうとしているイメージです。この方法を使うと股関節に強烈なテンションを感じ、大腿四頭筋にも力が入るはずです。
そのテンションを、バーにお尻を下げる時にも、床からバーを挙上する時にも保持してください。
ぶっこ抜くのではなくてテンションを生み出す
力を込めてバーを床から挙上する前に、挙上した瞬間にフォームが崩れないように身体が固められていることを確かめる必要があります。このことは「バーのたわみを取る」と表現されます。
私は「身体にテンションをかける」と考える方が好きです。なぜなら相当の重量にならない限りバーに「たわみ」は生まれないですが(引き始めないとバーは曲がらない)、この考えなら誰もが利用できるからです。特に初心者の方にはより重要でしょう。
スクワットやベンチプレスと違って、デッドリフトはバーが床にある状態から始まります。1レップ目はエキセントリック(バーを降ろす動き)がないため、身体が固まっていてコンセントリック(バーを上げる動き)で最大出力の準備ができているということが確認できません。
多くの選手が1レップ目にセットアップしたにも関わらず、挙上開始直後に思いっきりぶっこ抜く傾向があります。身体が十分に固まっていなければ、急に力を入れることによりお尻の位置が上がり背中が丸まってしまいます。
肩とお尻を同時に動かすように試みますが、お尻だけあがり、バーが動かないため肩はほとんど動きません。そうすると残りの挙上に良くないポジション(安全性とパフォーマンス両方の観点から)になってしまいます。
その代わりに、挙上に丁度必要な力を加える前に、人間的に可能な範囲で身体中にテンションを作り出すべきです。バーが床にある状態でもかなりの力で引いているべきで、少し力を足しただけで挙上が始まるレベルが良いです。
お尻が低い位置からデッドリフトを始める人には「バネを縮める」方法(テクニック2)を教え、お尻を高い位置で引くハムストリング優位なデッドリフターには「弓を引く」(テクニック1)を教えることが多いです。
上記が最初の2つのテクニックをほとんどの選手、特に初心者、にお勧めする理由です。その2つのテクニックではセットアップの中にテンションを作り出すことが含まれていますが、他の4つでは簡単に「ぶっこ抜く」ことができてしまいます。
デッドリフトの練習をして経験を積むにつれて、テンションを作り出す習慣が付いてくるでしょう。経験のある選手ほど、問題なく「ぶっこ抜けて」しまうのは、挙上する瞬間に必要なテンションを作り出すことができて、テクニックが崩れないからです。
しかしながら、デッドリフトのやり方を習得している段階(もしくはデッドリフトの経験があるが何かしらの問題を修正しようとしている段階)では、走る前に歩くことを習わなくてはいけません。
床からバーが離れるまで全身に最大限のテンションを作り出し、バーが動き始めるという感覚があるまで徐々に力を込め、最後に力を足してバーを床から浮かせる練習をしてください。
バーの位置/バランスの取り方
デッドリフトでは多少のバランスが必要になります。倒れたら挙上を終えられないのは当然ですが、それ以上に考慮しなければいけない要素があります。
重心が前や後ろに行き過ぎると、ロックアウトが必要以上に難しくかるかもしれません。
重心がかかとの後ろ側過ぎる場合、バランスを崩して後ろに転ばないように、肩を後方に動かして胸を張るのが難しくなります。重心が母指球の前側過ぎると、前方に転ばないようにするために、股関節を前に突き出してロックアウトするタイミングを遅らせなければいけません。前方に重心がずれると脊柱も曲がりやすくなるでしょう。
さらに、挙上中にバランスを取ろうと意識しなければいけない場合、最大の目的に集中できなくなってしまいます。高重量のものを床から持ち上げるためにバーに最大限の力を伝えることです。
挙上中にバランスを保つことは、楽で習慣であるべきです。デッドリフト中にバランスを崩すべきではないだけではなく、バランスを保つことも考えるべきではないです。集中するのは高重量を引くことだけであるべきです。
デッドリフトでバランスを取るのが難しい場合、前後に重心がずれて失敗してしまう場合、挙上中に自然にバランスを保てず、挙上自体と同じくらいバランスにも気を使わなければいけない場合、いくつかのドリルで修正することができます。
重心が前後にずれることによって発生する前述した問題を避けるために、挙上中は常に足の中心で地面を押せるようにしたいです。
その上で、バーがスネや足に対して正しい位置にある状態で始めることが重要です。基本的なルールとして、バーはスネから2.5〜5cm離れた位置、靴紐の上あたりに位置するべきです。しかしながら、特に体重に対して重量が軽い場合は、上記のルールが上手くいかない場合もあります。
足の中心に重心を保つために、バーを自分の身体に対してつり合いになります。デッドリフトのセットアップをした時に、体重の大半は足の中心より後方にあり、バーは足の中心より若干前方にあるべきです。身体が大きい人やかなり低重量の場合は(初心者やウォームアップ中)、身体につり合うためにバーはさらに前方にある必要があり、もしくは体重を若干前方に動かして重心が足の中心から後方過ぎないように調整する必要があります。
デッドリフト中にこんなことを考えていたいと思いますか?考えたくないですか?良かったです。私も考えたくないです。
1つ目のドリルでは、バランス感覚が足りていないことや、挙上開始時のバーの位置が適切でないことが問題の原因でないと確認できます。
通常通りデッドリフトのセットアップを行い、身体を固めて全身にテンションをかけ(もしくはたわみを取る、という言い方もあります)、少しだけ、2〜3cmだけバーを床から浮かせます。2秒間ほどその姿勢を保持し、バーと身体を一番自然に感じる位置に動かしてください。
全重量がかかとに乗っていると感じる場合、お尻を少し高くするか膝を少し曲げてバーを若干前方に動かします。母指球に重量が乗っていると感じる場合、後ろに下がり若干お尻をあげ、膝を少し伸ばしてバーを若干後方に動かします。
そのバランスが取れたら、バーを床に戻してセットの1レップ目を始めます。
このドリルを行うことでバランスが取れるようになって、挙上開始時のバーと身体の位置を調整するだけで安定した挙上になるのであれば、挙上直後にバーの位置を保持するためにバーと身体の位置を調整しなくて良くなるまで数週間、ウォームアップとメインセット前全てにこのドリルを取り入れましょう。
しかしながら、挙上開始時の問題は解決しても中間やトップでバランスが崩れてしまうと感じる人もいます。最初はバランスが取れていても、維持できないタイプの人です。
その場合は、挙上全体のバランスを向上するためのドリルが2種類あります。
- 1.25kgプレートを足の中心の下に置いてデッドリフトを行う。
こうすることで重心が強制的に足の中心上になります。こちらの記事から情報を得まして(記事中ではスクワット用として紹介していますが)、魔法のように効果があります。
前方や後方に重心がずれてしまう場合は、プレートの端に力を感じるようになるため、触覚的フィードバックによって位置を調整できます。
- ポーズデッドリフト
挙上を開始したら、床から2.5cm浮いた段階でバーを止め(最初に紹介したドリルのように)、バランスを取るために前後に身体を調整します。そしたら膝下まで引き、同様にバランスを前後に調整します。そしたらロックアウトするまで引きます。やりたいのであれば、降ろす際に同じポイントで止めても大丈夫です。
ほとんどの人にとって、ウォームアップの最初3〜4セットで3〜5レップポーズデッドリフトをやるだけで、その後の高重量セットでの感覚を得るには十分です。2ヶ月後には、バランスを取る習慣が付いているためポーズはやめて大丈夫なはずです。(もしくは私のようにウォームアップではポーズを行い、感覚を失わないようにしてもいいです。)
しかし、ポーズをやめた途端にバランスを失ってしまう人もいます。そうなった場合は、位置を調整する必要がなくなるレベルでポーズ中のバランスが取れるようになるまでの2〜4週間、ポーズデッドリフトをメイン種目として扱いましょう。
その後は、ゆっくりとしたコンセントリックとエキセントリック、1レップ毎に3〜5秒かけて挙上し3〜5秒かけて降ろす、デッドリフトに移行します。これによってセット中に感覚を維持でき、高スピードを行ってバランスが崩れることはありません。
そしたら2〜6週間かけて、バランスを保ちながらレップスピードを向上させていきます。バランスを崩したらスピードを落としながらも、よりスピードを速めるようにしてください。
最終的には最大スピードで床からバーを引くことも違和感がなくなるはずです。人によっては速いレップになれるまでに長い時間を要しますが、このプロセスが終わる頃には、挙上中にバランスを保つことは癖となり、そのうち実を結びます。
これら全てのドリルの目的は、ドリルの必要性がなくなる状態に達することです。将来的にいつかポジションに違和感を覚えたら、またドリルをやっても大丈夫です。
デッドリフトでバランスを保つ習慣を持つことがゴールです。バランスが上手く取れたデッドリフトの感覚を理解していないと意味がわからないような方法をたくさん利用するよりも、実際の種目を利用して(ポーズやプレートを足の下に置いて触覚的フィードバックを得る)問題を解決する方が一般的に効果的です。
広背筋の重要性
私は広背筋のトレーニングが嫌いなやつ、という評判を得ているようです。
あまり公平な特徴づけだとは思いません。今まで本サイト上では、ベンチプレスにおける広背筋の役割しか探求していません。(端的に述べると、ベンチプレスにおいて、広背筋はよくても動作を安定させる役割がある程度で、広背筋の筋力はノーギアベンチプレスの制限因子にはなり得ない、という内容です。)
しかし、ベンチプレスでは大きな役割はありませんが、デッドリフトでは重要な役割を確かに持っていますし、間違いなく広背筋を鍛えるべきだと考えています。
解説を始める前に、デッドリフトにおいて広背筋は主動筋ではないと明言しておきます。主動筋は第一に股関節伸展筋群、その次に脊柱伸展筋群、スモウデッドリフトの場合はそれに加えて大腿四頭筋です。
しかしながら、広背筋は主役ではないとはいえ、その役割は重要で、広背筋を正しく活用することでデッドリフトの重量も伸びるでしょう。
デッドリフトでの広背筋の重要性に関わらず、その役割は勘違いされがちです。よく広背筋はデッドリフトにおいて背中を固めるのに貢献し(特に上背部)、背中が極度に曲がるのを防ぐと言われ、広背筋が上背部を伸展させているように思われます。
しかしながら、広背筋繊維は複数の脊椎に繋がっていないため、有意な脊柱伸展モーメントを生み出すことは出来ず(胸腰筋膜を緊張させることによって若干腰の伸展にはなるかもしれませんが)、胸椎の上部脊椎に付着していないため上背部の伸展を保つ作用は確実にないでしょう。
その代わり、「広背筋のテンション」にはもっと基本的な目的があると思います。広背筋が脊柱伸展を保つのではなく、肩甲骨の位置を調整し広背筋を活用することで、挙上に必要な股関節および脊柱伸展負荷を低下させるということです。
ナローデッドリフトの股関節伸展モーメントアームは重心(足の中心としましょう)と股関節の水平距離です。スモウデッドリフトのバイオメカニクスはもう少し複雑ですので、ナローデッドリフトだけを説明します。とはいえどちらのスタンスにも同じ原理が適用されます。
広背筋により力を入れることで、肩を若干伸展でき、バーに対して肩が少し前方に動きます。それによりお尻も前に動き、股関節伸展モーメントアームを低下させます。
肩甲骨の下制に関しても同じ原理です。肩は伸展させませんが、肩関節そのものを胴体の下に動かし、股関節との距離を縮めます。
このちょっとしたテクニックによって大きく変化が現れるとは期待しないでください。合計で股関節と腰の伸展負荷が3〜5%減るかもしれないくらいでしょう。その変化だけでも十分により重く引けるようになりますが、著しい変化ではありません。
しかしながら、胸椎の伸展が保持されることによって(もしくは少なくとも曲がりすぎを防ぐ)、上背部には大きな変化をもたらすでしょう。
理由は以下の通りです。少なくともファーストプルの間はバーから股関節までの距離が45〜60cm離れているため、広背筋に力を入れて肩甲骨を下制させても股関節には大した違いはありません。
マックス重量レベルの場合、肩に対してのバーの位置(またそれに伴う股関節や脊椎全体に対しての位置)は2.5〜5cm変わるくらいかもしれません。もちろん股関節や腰にも変化がありますが、非常に小さい変化でしょう(股関節伸展モーメントアームが50cmだとすると、2.5cm短くすると5%の定価になります)。
しかしながら、胸椎は股関節や腰椎ではなく肩に近づいています。広背筋を使って肩甲骨を下制する前に、T9/T10の結合部が重心の12.5cm後方である場合(この関節での脊柱伸展モーメントアーム)、広背筋を使って肩甲骨を下制した後はその距離が10cmだけになっているかもしれず、その関節における胸椎伸展負荷が20%低下します。
そしてT4/T5結合部が最初は重心の2.5cm後方だとすると、広背筋を使って肩甲骨を下制することで、重心と一直線になり、その関節(胸椎の中部/上部)での脊柱伸展負荷をほぼゼロに低下させます。
上記写真からそのことは明らかでしょう。赤い線(重心)に関節が近づくほど、肩伸展(広背筋の活用)や肩甲骨下制によって起こる変化は大きくなっていきます。
広背筋は脊柱を伸展させず、肩甲骨の位置も脊柱の伸展に影響を与えないにも関わらず、広背筋を利用し肩甲骨を下制させることによってデッドリフト中に上背部を固めやすくなるという所見は、これによって説明できます。
簡単に言うと、この方法でバーの位置を若干変えることで(それに伴いバーに対する身体の位置も変わる)、バーによる脊柱屈曲モーメントを低下させ、上背部への負荷が下がります。
もし本サイトを継続的に読んでいる方であれば、このことは聞き慣れているでしょう。スクワットでのバーの位置に関する話に非常に似ています。
バーの位置(ハイバー、ローバー、フロントスクワット)によって腰は股関節に大きな違いは生まれませんが(フォームの意識を変えない想定で)、胸椎伸展筋にかかる負荷には物凄く影響します。
広背筋を使って肩甲骨を下制させるための方法としては、「肩甲骨を後ろポケットに入れる」(Tony Gentilcoreから学んだと思います。)や「スネにバーを引きつける」(肩からストレートアームプルダウンをやるように意識します。後方にしゃがんでスネにバーを擦らせるのは簡単です。)というイメージが効果的です。
自分の後ろにある壁に肘を向ける意識を持つだけでも効果があります。こちらの記事にてその他の方法が紹介されています。
デッドリフトでどのように広背筋を使えばいいのか感覚がわからない場合は、Dean Somersetから学んだ非常に良いドリルがあります。
手を自由にするために手首にバンドをかけて、デッドリフト中に広背筋を活性化させるために前方にバンドが引っ張られている状態で最初のデッドリフトウォームアップ数セットを行うことで、このドリルをもう少しデッドリフトに近づけられます。
バーの軌道
このテクニックによってバーの軌道が前後にブレにくくなり、デッドリフトの効率性も向上させるでしょう。
重心は足の中心上になければいけません。肩の真下にバーがある場合、体重のほとんどはバーの後方にある必要があるため、挙上開始時にバーは足の中心より少し前方にあり、身体の重心は足の中心より少し後方にあります。
挙上するにつれて、股関節が伸展し身体の重心が前方に移動するため、バーは後方に動き身体に近づいていきます。
広背筋を使い肩甲骨を下制し、肩を少し伸展させることで、身体の重心を若干前方に移動させ、挙上開始時にバーは若干後方に移動し、バーと身体の重心は全体の重心に近づきます。
股関節を伸展する時に身体の重心を前方に移動させる必要がないため、バーも後方に動かず、より直線的なバーの軌道になります。
実際に、中級レベルのウェイトリフターを被験者としてこの現象は研究されています(デッドリフトマックスの平均は〜170kgですが、下記画像は1RMが275kgの被験者のものです)。
肩関節の真下でバーが若干前方にある状態から始めるのに比べて、肩をより伸展させてバーが足首に近い状態で始めることで、バーの前後の動きが43〜44%減少しています。
より直線的なバーの軌道が重要かどうかは議論の余地がありますが(真っ直ぐ落ちる重力に抵抗しているため、バーを前後に動かす力は無視できます。重心が足の中心上である限り、バーの軌道のブレは大した問題ではないです)、バーの軌道に関して私よりもこだわりのある人であれば、デッドリフト中に広背筋を意識的に使うことのさらなるメリットになります。
本章を簡単にまとめます。デッドリフトにおける広背筋と肩甲骨の位置の役割は、上背部を伸展させたり「固めたり」することではなく、ポステリアチェーン全体に対して負荷を軽くすることです。股関節伸展筋群や腰椎伸展筋群への負荷が少し減り、胸椎伸展筋群への負荷は大きく減少します。
デッドリフト中に広背筋を活用するのは、ほとんどの人にとって自然な動きであるように思います。実際に、デッドリフトを真横からみた動画では(特に経験豊富な選手の場合)、バーは肩より若干後ろにあります。選手が意識的に広背筋を使っていなくても、荷重状態で肩を伸展させるために広背筋は使わなくてはいけない、ということです。
(こちらのビデオでは高重量の場合にどうなるのかがよくわかります。バーは肩からそこまで後方にはありません。なぜならそれにはとてつもなく強い広背筋が必要だからですが、バーが膝を越えるまでは、バーは肩の真下にはないことが明確です。)
しかしながら、このテクニックについてあまり考えたことがなければ、今後デッドリフトをやるセッション数回で広背筋を意識的に使うことを試してみて、挙上が特に上背部に対して楽になるか確認してみる価値はあります。
ただし、体重を前方に移動しすぎるようなやりすぎには気をつけてください。広背筋の強さによってバーの位置は決まり、身体の位置はそれに合わせて自然に調整するべきです。
デッドリフトで広背筋の効果を最大化したいのであれば、広背筋を鍛えましょう!重量が重くなるほど、有意な度合いで肩を伸展させるのが難しくなります。広背筋が強いほど、このテクニックの効果は大きくなるでしょう。様々な種類のロウイングを行いましょう。
スネの角度
ナローデッドリフトのセットアップにおける一番最後の小さな要素は、スネの角度です。垂直なスネなのか、膝を若干曲げた状態なのか、どちらで挙上を開始するのがよいのでしょうか?
これに関しては個人の好みにほとんど任せますし、スネの角度による影響も簡単に誇張されると思います。
デッドリフトを失敗する時に、ほとんどの人は5cmほど床から離れたところか、膝の高さで失敗します(基本的に相当重量を飛ばさない限り床からは上げられますし、基本的に膝を越えればロックアウトできます)。
スネが若干前傾している状態から引き始めたとしても、バーが上がってきたら膝をどかさないといけません。そうしないと、バーが前方に移動してバランスが崩れてしまいます。足の中心上に上手くバランスを保てる前提で考えると、垂直な状態で始めても膝を曲げて始めても、スネは挙上に最も重要な部分において実質的に垂直になっているでしょう(前傾していたとしても、数度程度)。
上記を前提として、挙上開始時のスネの角度は、主に自分自身が床から引く時にどの角度で一番強く感じるかによって変わります。
股関節だけの動作のような形が一番強く感じる人もいます。胴体をより前傾させて膝をより伸展させた方が、バーを床から引く際のハムストリングのテンションが強くなるのです。こういった人たちはスネを垂直な状態で始めた方が強く感じる傾向にあります。
他の人たちは(一般的には腕が短く、股関節屈曲だけではバーまでしゃがむのが難しい人)、挙上開始時に膝がバーの真上か少し前方にあった方が強く感じます。ハムストリングのテンションが低下する分、大腿四頭筋をより使って床から挙上し始めます。
もう一度述べますが、バーが動き始めると膝は後方に移動し、挙上開始時のスネの角度に関わらずスネは垂直になっていきます。これらのポジションの違いは最初の5cm程度にしか関わってこないです。
ハムストリング優位な引き方の方が強く感じるのであれば、スネを垂直にして挙上を始めてください。バーを浮かせるために少し大腿四頭筋の力を使った方が強く感じるのであれば、スネを数度前傾させて膝がバーの上にある状態で挙上を始めてください。
スネの角度:スモウデッドリフトの違い
前述した通り、基本的なスモウデッドリフトの足幅は横から見ても前から見ても、スネが垂直である状態です。もう少し狭い幅や(多くの場合)広い幅の方が強く感じるかもしれませんが、ベースとしてはいい足幅です。
ナローデッドリフトと違い、スモウデッドリフトでは膝を前方に曲げるのは一般的ではなく、おそらくマイナス要素になります。理論上は同じ原理を適応できますが、実際にはスモウデッドリフトではバランスを崩さずフォームを保つことが重要であると同時に難しく、スネが挙上開始時や中間地点でバーの邪魔になるのは、若干だとしても、圧倒的に挙上を失敗しやすくなります。
そのためスモウデッドリフトでは、スネを垂直にしてセットアップして(横から見た時に垂直、前後から見た時は多少ずれていてもいい)、挙上中もしくは少なくともバーが膝を越えるまでは、スネを垂直に保つのがベストだと推測します。
バーの挙上
ここまできたら、セットアップに関連することは整理できているはずです。足幅とグリップもセットし、深く息を吸って、バランスを調節し、広背筋に力を入れ、身体にテンションをかけます。そしたら次は高重量を実際に引く時間です。
重いバーを床から持ち上げるための最大の鍵は、バーをできる限り意識しないことです。バーを握って広背筋を使うためにバーを身体に引きつけること以外は、バー自体のことを考えるべきではないです。
バーを動かすことに集中すると、身体の動作に対する集中を失ってしまいやすくなります。一般的に、「バーを持ち上げる」動作の経験が比較的浅い人は、セットアップしたことを全て忘れてしまいます。お尻は高くあがり、背中が曲がり、悪い(そしてより危険な)ポジションになります。
その代わりに、①せっかく集中したセットアップを無駄にしないように、②可能な限り効率的に挙上するために、身体の動作を意識するようにしましょう。
挙上を終えるためには、脊柱を真っ直ぐ固定した状態で膝と股関節を伸展させる必要があります。
一般的に「胸を張る」ことを意識すれば、デッドリフト中に脊柱を真っ直ぐ固定しやすくなります。それによって、少なくとも胸椎は伸展させようとしなければいけなくなります。
胸椎を伸展させようとすると、ほとんどの人は自然に胸椎も伸展させます。セットアップ中に広背筋に力を入れる際に胸を張り、挙上中は張り続けるようにしてください。胸を張ろうとした時に脊柱(特に腰)が曲がってしまいがちな場合は、後述するよくある質問にて確認してください。
挙上開始時は「床を押す」ことを考えてください。理由はなんであれ、バーを持ち上げるよりも床を押す意識を持つ方が挙上開始時にお尻があがるのを防いでくれます。この考えは最初の7.5〜10cmだけに必要で、そのあとは股関節伸展のみです。
床からバーが動き始めたら、大腿四頭筋は主動筋ではなくなります。この時点では、背中を極端に曲げずに股関節を伸展させることだけが重要です。「肩を後ろに」や「股関節を前に」といった基本的な考えでほとんどの人は上手くできるでしょう。
「肩を後ろに」という感覚がわからない場合は、ハイバーグッドモーニングを試してみてください。グッドモーニングのボトムからあげる際に僧帽筋をバーに押すことで「肩を後ろに」という感覚がわかると思います。
他の方法として、バーによって身体が前方に引っ張られるのを強調するためにバンドを上背部にかけ、低重量をデッドリフトをやるのもありです。バンドに抵抗して肩を後ろに動かす感覚が、バーベルだけ挙上していて肩を後ろに動かすのと同じになります。
「股関節を前に」という感覚がわからない場合は、ヒップスラストや腰にバンドをかけたデッドリフトが非常に良いです。デッドリフトで必要な力強く股関節を前に突き出す動きが必須になるからです。
まとめると、挙上中は常に「胸を張る」(必要であれば広背筋を使う意識を持つ)、床から引き始める時に「床を押す」、バーが動き始めたら「肩を後ろに」「股関節を前に」となります。
これらのバーではなく身体を動かすイメージを意識することで、安全に力強く、そして効率的にデッドリフトを引けるポジションを保持できるでしょう。
動作を習得している時には、一般的に「胸を張る」(背中を固めるために)というイメージを最初に意識します。
マックス未満の重量で問題なく脊柱を真っ直ぐ保持できるようになったら、挙上開始時により苦しんでいる場合は「床を押す」意識をし、ロックアウトに苦しんでいる場合は「肩を後ろに、股関節を前に」という意識をします。
2つ以上(最大で2つ)を同時にイメージするのは非常に難しいため、一番問題的な部分に焦点をあて、それを解決した後に他の問題に移っていきましょう。
最後の要素として1つ。挙上中は最大限の力を入れて、毎レップ思いっきり引いてください。研究によって、意図的に遅く挙上するのに比べて、全力で挙上した際には筋力の伸び幅が約2倍だったと示されています。
動作を学ぶためにゆっくりやることは問題ありません。しかしながら、テクニックが身についてきたら最大限力強く引きましょう。
この方法を支持する研究だけでなく、Andy BoltonやEddie Hallといった史上最強のデッドリフターも、「スピードデッドリフト」(とはいえ318〜363kg以上ですが)によって世界記録のデッドリフトに辿り着いたと言っています。
バーの挙上:スモウデッドリフトの違い
スモウデッドリフトでも基本的には同じイメージで良いですが、2つだけ例外があります。
スモウデッドリフトは若干大腿四頭筋優位であり、挙上中常に上半身がより直立に近づくため、「床を押す」部分が長くなる傾向にあります。
セットアップと同様に、少なくともバーが膝を越えるまでは「床を半分に割く」意識をしましょう。膝を外側に保持しやすくなり、股関節が後方に移動するのを防いでくれます。
基本的に、挙上中は常に胴体がより直立的であることが理由で、スモウデッドリフトで前方に身体が流れたり、脊柱が極端に曲がったりする可能性は低いです。そのため、バーが膝を越えてロックアウトに近づくタイミングで「肩を後ろに、股関節を前に」という意識を持つ必要はほとんどないです。
ロックアウト
挙上を完了するためには、脊柱と股関節、膝が真っ直ぐになっている必要があります。ただそれだけです。いたって自然なポジションで直立しているだけです。
ロックアウト時に股関節や脊柱を過伸展させてしまう人は多いです。競技においても必要なく、デッドリフトのトレーニング効果を得るためにも必要ないです。何の得もなしに挙上が難しくなります。
さらに、ロックアウト時に過伸展すると膝が再度屈曲してしまう可能性が高まり、競技においては失敗試技になってしまいます。
以下の写真がロックアウトのあるべき姿と、過伸展したロックアウトの姿です。
高重量をロックアウトするのに苦戦している人(そして無意識のうちにロックアウト時に過伸展しがちな人)は、臀部を適切に使うだけで問題を解決できます。
ロックアウトに問題を抱えている人の多くは、骨盤を前傾させハムストリング優位な股関節の動きをしています。ロックアウトのタイミングで、腰が非常に反っていて股関節が完全にロックアウトする前にバーが止まってしまいます。
挙上を完了する場合は、過伸展することで股関節をロックアウトしなければいけないのです。臀部を収縮させ骨盤を中立的なアライメントに戻せば、股関節を前に出してロックアウトできるようになり、挙上のトップで過伸展する必要がなくなります。
ロックアウトに近づいている際には、「肩を後ろに、股関節を前に」と考えているべきですが、「股関節を前に」の部分は臀部を収縮させて達成するように意識しましょう。
言い方を変えると、デッドリフトのロックアウトはただの加重ヒップスラストです。
低重量で力強くロックアウトする練習を行うだけでこの動作は十分に身につきますが、ケーブルプルスルーやケトルベルスウィングなどで臀部を収縮し、腰を反らずに直立して終える意識をするのも役に立つでしょう。
コントロールして降ろす
挙上を終えたら、最後はバーを降ろすことです。
バーを床に降ろす方法は、持ち上げた時と同じです。コントロールしながら、脊柱を伸展させたまま降ろします。
デッドリフトの降ろし方で私がよく見る悪い癖は以下の2つです。
- バーを落とす。(私もやってしまう悪癖です)
- 背中を曲げ、降ろす際にバーをコントロールしていない。
毎レップコントロールしながらバーを降ろすべきである理由は、主に4つあります。
1. エキセントリック種目はコンセントリック種目に比べて筋肥大を促進するポテンシャルがあると考えられる。少なくとも、エキセントリックとコンセントリック種目を合わせた方がコンセントリック単体と比べて、筋肥大にも筋力にも効果がありそうです。
スクワットやプレス、懸垂、ロウイング、カールなどジムで行う種目は、意図的に排除しない限り大抵エキセントリックとコンセントリック部分があるので、基本的な種目では気にしなくていいことです。
一方でデッドリフトの場合は1レップ目の前にエキセントリックがなく、バーを落としたり、抵抗せずに素早く落としてしまえば各レップのエキセントリック部分も無くせてしまいます。
そうすることで1レップの半分はなくなり、筋力や筋肥大のポテンシャルが失われてしまうでしょう。
2. 安全性。バーを落とす時だけではないですが、エキセントリック部分で集中していないと、フォームが崩れ、背中は曲がり、怪我のリスクを不必要に高めてしまいます。
3. 器具を大切に扱う。バーやプレートによっては落とされても大丈夫なように作られています(オリンピックウェイトリフティング用のバーや、オリンピックウェイトリフティング用のラバープレート)。
しかしながら、一般的なパワーリフティングバーは頻繁に落とす(もしくは握っていても降ろす際に一切抵抗せず実質的に落としている)と寿命が縮まり、メタルプレートは何回も落とすことで欠けてしまいます。
4. 次のレップに身体を備える。エキセントリック部分の後には伸張短縮サイクルによって、筋肉と神経系はより強い力を発揮できるようになります。
タッチアンドゴーで行う際には明確ですが、ストレッチしてから2秒程度は伸張短縮サイクルの一部は残っているため、バーを一時的に置いたり、レップ毎にリセットしても効果があるでしょう。
そのためバーを降ろす際は、持ち上げた時と同じように降ろしてください。胸を張り、バーが膝にくるまでお尻を後ろに出し、地面に戻すまで床を押し続けましょう。バーをコントロールして、床に当たるときは優しく当たるようにしてください。
デッドリフトでエキセントリックをコントロールすることに関する経験談を話します。私は今までほとんどパワーリフターやウェイトリフター、ボディビルダー向けの「ハードコア」ジムでトレーニングしてきています。
こういった場所ではバーを落としたり、バーを降ろす際に大きな音が出たりすること(コントロールせず)に対して気にされることはありません。
しかしながら、過去に最速でデッドリフトの記録が伸びたことが2回あり、バーをコントロールしたりデッドリフトで大きな音を立てないという厳しいルールのある、一般的なジムでトレーニングしていた時でした。
デッドリフトをする際に大きな音を立てる「ハードコア」なバカだった私にとって、これらのルールは面倒でしたが、他の人たちを尊敬して我慢し、デッドリフトをコントロールして毎レップ優しく降ろしていました。
ベンチプレスとスクワットは、高重量をあげるのに適切な「ハードコア」設備があるジムの方が成長が早かったですが、デッドリフトに関しては、エキセントリック部分をコントロールしないといけない一般的なジムでトレーニングした方が、成長が早かったと気づきました。
もちろん、私のトレーニングスタイルも時が経つにつれて変化してきたのでこの他にもたくさんの要素があります。しかしながら、今は大きな音やバーを落とすことに対して寛容なジムでトレーニングしていますが、これに気づいたことにより、デッドリフトのエキセントリックをより意識するようになりました。
デッドリフトの弱点分析
ナローデッドリフトの弱点分析
話に入る前に、テクニックが悪いともちろんデッドリフトの制限因子になります。バランスが保てなかったり、良いスタートポジションを取れなかったり、ポジションを保持して挙上を終えられなかったりなど問題を抱えているかもしれません。
悪いテクニックは挙上中どのポイントでも問題を引き起こします。本章ではテクニックはしっかりしていて実際の筋力不足によって重量が制限されているという前提で話します。
筋力不足は高重量においてテクニックを崩すこともありますが、テクニックではなく筋力不足が原因でデッドリフトの重量が制限されていると考える前に、少なくとも1RMの70〜80%ではしっかりしたテクニックを保持できるべきです。
デッドリフトには基本的に4種類の負荷があることを思い出してください。
- 脊柱を伸展し続ける(もしくは胸椎を屈曲させて挙上する場合は再伸展させる)。
- 股関節を伸展する。
- 膝を伸展する。
- バーを握り続ける。
はじめに、ナローデッドリフトにおいて大腿四頭筋が制限因子になる(膝の伸展ができない)可能性はかなり低いと言っておきます。同じくらいトレーニング経験のある2グループを比較したところ、ナローデッドリフトに比べてスクワットの方がピーク膝伸展負荷が約5〜6倍高いとわかっています。
大腿四頭筋が異常に弱ければデッドリフトのパフォーマンスを制限するかもしれませんが、何かしら大腿四頭筋主体の種目(スクワット、スプリットスクワット、レッグプレス、ハックスクワットなど)をやっていれば、大腿四頭筋がナローデッドリフトのパフォーマンスを制限することは決してないでしょう。
さらに、グリップ力により重量が制限されている場合も、問題は明確です。高重量デッドリフトを保持することができないだけです。その場合は弱点分析に困らないでしょう。
股関節や背中によって重量が制限されている場合は判断が難しいです。デッドリフトを失敗する時は、基本的に背中が曲がり始めます(もしくは背中が曲がり始めたとわかった途端にやめる)。本能的には、背中が曲がっているため脊柱伸展筋群に問題があると考えます。しかしながら、脊柱が曲がる時は股関節がバーに近づくため、股関節伸展筋群にとって楽になるます(詳細は後述します)。
そのため、アイソメトリック収縮もしくは屈曲後に再伸展する筋力が足りておらず脊柱が曲がるのか(もしくは曲がり始めるとわかる)、股関節伸展筋群にとって楽な挙上にするために脊柱が曲がるのか、どちらなのか判別しなければいけません。
弱点を解説する前に、何が「普通」なのか理解しておくことが重要です。
ナローデッドリフトでは、中間地点が最も弱いポジションになります。経験豊富な選手が最大重量を挙上する場合、スネの中間から出力が徐々に落ち始め、膝の高さで挙上スピードが最も遅くなります。
※スティッキングポイント:挙上の中で一番難しく重く感じる部分のこと。基本的に失敗するのはスティッキングポイント周辺になります。
この研究結果は現実でも裏付けされています。かなり強いデッドリフターの失敗試技を見ると、大体の人は床からは浮かせられますが、膝か膝下の高さで失敗します。
基本的に、膝から2.5〜5cm上にバーをあげられたら(悪いポジションに持ってかれることなく)、ロックアウトできます。
そのため、ナローデッドリフトで失敗する部分がそのあたりの場合は、ある特殊な弱点が原因ではないです。バイオメカニクス的に一番弱いポジションで失敗しているだけで、そうなる「べき」なのです。
上記を踏まえて、その他にナローデッドリフトを失敗する可能性のある部分や、それに対する改善方法を確認していきましょう。
床から上がらずに失敗する場合
床からバーを浮かせられなかったり、本当に少しだけ浮かせてその後5cm程度で止まってしまい、デッドリフトを失敗する人がいます。
このスティッキングポイントの原因として明確なものが1つあります。急に重量を上げてしまうことです。227kgをギリギリ上げられる能力があったとしても、215kgから250kgに重量をあげたら、もちろんほとんどバーは動かせないでしょう(それか一切動かない)。
しかしながら、227kgをギリギリ上げられても、231kgが床から浮かなかったりほとんど動かない人もいたりします。
その場合に、股関節が原因なのか、脊柱伸展筋群が原因なのか、簡単に確められるテストがあります。
十分にウォームアップした後に、1RMの85%程まで重量を上げながら、エキセントリック部分を毎レップコントロールして数レップ行います。
マックス重量の85%に達したら、スクワットラックやブロックなどに、ロックアウトの5cm下あたりにバーが来るようにセットします。そして1RMの90%、95%、101〜103%でエキセントリックのみを行います(再びラックの上にセットするために、セット間の準備では重量を落とす必要があるでしょう)。
ラックアップしデッドリフトの足幅で数歩進んだら、脊柱伸展を保持するのを最優先して、1レップだけエキセントリックをコントロールします。トレーニングパートナーがいる場合は、パワーラックでも行えます。
セーフティーからバーを持ち上げて、パートナーにセーフティーを外してもらってから、エキセントリックを行います。
これで脊柱が曲がってきてしまう場合は、背中の筋力が制限因子である可能性が高いです(1RMの90%で曲がった場合は、95%や101〜103%をやる必要はないです)。
脊柱起立筋は基本的にアイソメトリック収縮しているだけなので、エキセントリックとコンセントリックのどちらも同レベルの負荷になります。エキセントリックをコントロールして下ろした時に脊柱伸展を保つことができれば、コンセントリック時にも十分な筋力があるでしょう。
どの重量でレップを行っても問題なく脊柱を伸展させられる場合は、股関節が制限因子である可能性が高いです。
筋肉はコンセントリックよりもエキセントリック時の方が強いため、通常はあげられない重量をコントロールしながら降ろせるということは、コンセントリックとエキセントリックの両方で働いている筋肉(臀部、ハムストリング、内転筋)が制限因子となります。
コントロールしてバーを降ろせない場合はどうしましょう?日頃のトレーニングでめんどくさがってバーを落とすのをやめる必要があります。(脊柱が曲がるケースと同様に、コントロールできないのであれば重量をあげる必要はありません。)
股関節伸展筋群や脊柱起立筋を狙った補助種目よりも、デッドリフトのエキセントリック筋力を鍛え上げることを優先して取り組むべきです。
このテストで背中の筋力が制限因子とわかった場合は、バックレイズや高重量のバーベルロウが補助種目に最適です。リバースハイパーエクステンション、ラックプル(ブロックプル)も選択肢に入れていいです。
このテストで股関節の筋力が制限因子とわかった場合は、ルーマニアンデッドリフトやグッドモーニング、ヒップスラストが補助種目に最適です。バックレイズやハイパーエクステンション、リバースハイパーエクステンション、グルートハムレイズも選択肢に入れていいです。
エキセントリックをコントロール出来なかった場合は、数ヶ月の間デッドリフトではエキセントリックをコントロールして降ろしてください。エキセントリック筋力が不足していると怪我のリスクが高まるため、短期間的にはそれを最優先で取り組むべきです。
これら全ては、実際に筋力が不足しているという前提で話しています。セットアップに問題がある場合は、それが原因で床から上がらない場合もあります。
腰を丸めないとセットアップできなかったり(お腹が大きい人にありがちです)、デッドリフトのセットアップに凄い違和感を覚える場合は、セットアップが原因で床からの挙上が弱いのかもしれません。
お腹が大きくてセットアップが上手くいかない場合は、少し足幅を広めたナローデッドリフトか(スクワットのように足の間にお腹が入るように)、スモウを試すか、少し減量してみてください。
スタートポジションで違和感があるのみであれば、ポーズデッドリフトを試してみてください。バーを少しだけ浮かせて2〜3秒間保持し、その後引きます。そうすればスタートポジションに慣れてくるでしょう。
股関節伸展筋群の筋力は強いものの、デッドリフト挙上開始時の股関節屈曲角度ではあまり強くないという可能性もあります。少しだけ股関節を伸展した瞬間に、問題なくバーが動くパターンです。
しかしながら、デッドリフトを日頃からトレーニングしている場合は、その可動域で股関節伸展筋群をトレーニングしているため、私の経験上このパターンはあまり多く見られません。
ロックアウトで失敗する場合
ナローデッドリフトをロックアウト時点で失敗する場合、2つの特徴があります。
- 股関節は完全に伸展させられるが(もしくはほとんど)、脊柱を再伸展させられない。背中を曲げてデッドリフトする人のみに当てはまります。
- 脊柱伸展は保持できる、脊柱の再伸展はできるが、股関節を完全に伸展できない。
大抵の場合、前者は脊柱起立筋が原因で、後者は完全伸展に近いポジションでの股関節伸展筋群の筋力不足が原因です。
デッドリフトのロックアウト付近ではより直立しているため、挙上開始時よりも圧倒的に脊柱伸展筋群への負荷が小さいです。しかしながら、コンセントリック(短縮)よりもアイソメトリック(長さへの変化なし)の方が筋肉は強いです。
脊柱が曲がると脊柱起立筋は最大筋活動が低下するというデータもあるため、脊柱起立筋には特にこの特徴が当てはまるかもしれません。
この問題を直すためには、脊柱起立筋、特に胸椎の起立筋(上背部を再伸展できないのが最も一般的であるため)を強化するのが最適です。フロントスクワットが最も適した種目になります。
デッドリフトのフォームを再現し、スクワットになってしまうようなチートをしなければ、ハイラックプル/ブロックプル(膝上から)も補助に良いです。
ロックアウトの筋力不足の原因が股関節伸展筋力にあるのは、変に感じるかもしれません。挙上開始時よりもロックアウトの方がバーに股関節がもっと近づくため、重量による股関節屈曲モーメントはかなり小さくなります。
しかしながら、股関節が完全伸展に近づくほど、股関節伸展筋群の出力は弱まっていきます。そのため股関節伸展負荷が落ちると同時に、股関節伸展モーメントを生み出す力も落ちていくのです。ほとんどの人にとって、大したことではありません。
股関節伸展モーメントを生み出す力よりも先に股関節伸展負荷が落ちるため、ロックアウトは簡単です。一方で一部の人は、ロックアウトに近づくと股関節からの力を失ってしまい、デッドリフトのトップで股関節をロックアウトできなくなってしまいます。
この問題を直すためには、ヒップスラストと腰にバンドをかけたニーリングスクワットが最適です。
スモウデッドリフトの弱点分析
ナローデッドリフト同様、スモウデッドリフトの弱点は多くの場合、悪いフォームが原因となっています。足が外を向いているとバランスの保持がさらに難しくなるため、スモウデッドリフトにはフォームが2倍重要です。
例えば、ロックアウトの筋力が弱いからではなく、バーが前方へ流れてしまい、つま先立ちになってしまったことで(高出力には適さないポジション)、バーが膝を越えたあたりでスモウデッドリフトを失敗する人を見ることがあります。
改めて言いますが、テクニックではなくある筋力不足が制限因子となっているレベルの良いテクニックがある前提で本章は説明しています。
ナローデッドリフト同様、最初はまず何が「普通」なのかを学びましょう。ナローデッドリフトではほとんどの人にとって中間地点が一番弱い部分です。一方でスモウデッドリフトの場合、床からが一番弱い部分になります。
スモウデッドリフターに話すと、床から浮かせた、もしくは5cm程浮かせたら成功を確信するという答えが大体の人から返ってきます。
上記を踏まえて、スモウデッドリフトが床付近で失敗する場合、つまり地面から浮かなかったり、2.5〜5cmしか浮かずに止まる場合、ある特殊な弱点があるとは考えにくいです。
その重量に対してまだ身体が弱いだけです。股関節伸展筋群や大腿四頭筋のトレーニングも適宜加えながらデッドリフトを継続することで、重量は伸びていくはずです。
しかしながら、中間地点やロックアウトで失敗する場合は、何かしら対策が必要かもしれません。
中間地点で失敗する場合
スモウデッドリフトで失敗するのがいつも膝の高さあたりの中間地点の場合、バランス起因の場合を除いて、大腿四頭筋と臀部が原因である可能性が高いです。
一般的に私が見ている限り、スモウデッドリフトを中間地点で失敗する人は、挙上開始時のお尻の位置が高いです。しかしながら、多くの場合テクニックは原因ではありません。セットアップ時にお尻の位置が高いのではなく、挙上を開始すると共にお尻が高く後ろに動いてしまうのです。
挙上開始時にお尻の位置が低すぎるのは良くないということを思い出してください。しかし、お尻が高すぎるのも問題であり、スモウスティッフレギッドデッドリフトみたいになってしまいます。
ナローデッドリフトよりもスモウデッドリフトの方が、お尻を高くして挙上開始するデメリットが大きいです。ナローデッドリフトの場合、大腿四頭筋は活動するとはいえ比較的小さな役割です。
一方でスモウデッドリフトの場合は、大腿四頭筋の役割はきわめて重要です。バーが床についている時の大腿四頭筋への負荷は股関節伸展筋群への負荷とほとんど変わらず、膝を越えた時でも股関節伸展筋群の80%程です。
お尻が高くなって大腿四頭筋の関与度が低くなると、特に中間地点で、挙上が不必要に難しくなります。
それではなぜこのポジションに陥ってしまう人がいるのでしょう?
一番高い可能性として、臀部や大腿四頭筋に比べてハムストリングが強いことが考えられます。お尻が高くなり膝が少し真っ直ぐになると、ハムストリングへの負荷が増し、床からバーを浮かせる際にハムストリングを頼りにできます。
しかしながら、挙上開始時にハムストリングの助けを得るためにこのポジションになると、中間地点において大腿四頭筋で押してバーを引くのが難しくなります。
臀部や大腿四頭筋の補助種目を行うと、この問題もなくなることが多いです。臀部と大腿四頭筋が強くなれば、お尻を高く上げずともバーを床から浮かせられるようになります。バーを浮かせるタイミングで良いポジションを保持できるようになれば、中間地点は軽いです。
一番直接的な解決方法は、床から引く際に良いポジションを保持できるように軽い重量でメインセットを行うことです。1RMの80%ではお尻の位置に問題ないが、85%だと高くなる場合、80%かそれ以下でデッドリフトを行いましょう。
5レップまではお尻が上がらないが6レップ目で上がり始める場合、同じ重量のまま5レップかそれ以下で行いましょう。
床からバーを床から浮かせるための大腿四頭筋と臀部を強化する目的で、しっかりしたテクニックで質の高い練習をたくさん行なってください。
その他に取り入れられる補助種目は、ボトムハーフポーズデッドリフトです。普段通りのスモウデッドリフトでセットアップした後、床から浮いた瞬間に1秒間ポーズし、膝の高さでもポーズし、そこからコントロールしながら降ろし、さらに床ギリギリで再度ポーズします。これでやっと1レップです。正しいポジションで実施する点に集中し、5〜10レップ行いましょう。
ロックアウトで失敗する場合
ナローデッドリフト同様、スモウデッドリフトにおけるロックアウト筋力不足は、ただ単にその可動域で筋力が足りていないケースがあります。
その場合は、広い足幅でヒップスラストを行うのが非常に効果的です(スモウデッドリフトの足幅程広いのは現実的ではないかもしれませんが、可能な限り広くしましょう)。膝の高さからのラックプルやブロックプルも同様に効果的です。
また、背中を曲げてスモウを引いて、トップで脊柱を再伸展できない場合、ナローデッドリフトの章で説明したことが適応できます。しかしながら、滅多にないケースです。
しかしながら私の経験上、スモウデッドリフトにおけるロックアウト失敗の最も一般的な原因は、テクニックにあります。
ロックアウトが弱まってしまう一般的な原因は、バーが膝を越えた時に重量が前に流れてしまうことです。重心がさらに前に流れるとバーを落としてしまうため、重量がつま先に乗ると、股関節をバーに向かって突き出すのが難しいです。
前方へバランスを失いたくはないため、ロックアウトする際にブレーキをかけるように耐えることになり、ロックアウトが不必要に難しくなります。もしロックアウトでこういった問題を抱えている場合は、セットアップとテクニックの章にあるバーの位置/バランスの取り方を確認してください。
その次に多い原因は、足幅が広すぎることです。全力で可動域を狭めようとしたり、超広い足幅でデッドリフトする憧れの選手を真似しようとする初心者が増えてきていると思います。
広い足幅から大きな力を発揮できる人もいますが、そうでない人もいます(恐らく骨盤の形状やヒップソケットの位置によるもの)。超広い足幅ではそもそも股関節を完全伸展できない人もいます!
Andrey Belayevみたいな人は簡単に超広い足幅でロックアウトできるような股関節を持っているのです。しかしながら、Ed Coanのように他の素晴らしいデッドリフターは、狭い足幅で行う必要がありました。
足幅が原因か確かめるために、膝下の高さからラックプルやブロックプルを行ってみてください。通常のスモウの足幅で始め、数レップ狭めたり、数レップ足を外に向けたりしてみますよう。ロックアウトが最も強力なポジションが見つかるまで、足幅やつま先の角度を試行錯誤してください。
スモウデッドリフトの弱点について最後に一つ。
本章で脊柱起立筋について触れていないことに気づくと思います。その理由は、ナローデッドリフトに比べてスモウデッドリフトでは、脊柱起立筋筋力が制限因子であるケースが非常に少ないからです。
もう少し身体を直立させて挙上できるため、背中にはナローデッドリフト程きつくありません。スモウデッドリフトで背中の筋力が制限因子とならないように、トレーニングプログラムにナローデッドリフトにいくらか取り入れるようにしましょう。それだけで、背中の筋力が制限因子になることは無くなります。
よくある質問
スモウとナローデッドリフトのどっちを選択すればいい?
自分に向いているのがスモウなのかナローデッドリフトなのか簡単に確認する方法があるかよく聞かれます。
ありません。
一般的な話をすると、身体が小さいほどスモウが最適な可能性が高く、身体が大きいほどナローが最適な可能性が高いです。少なくとも世界トップの選手たちの間ではそういった傾向があります。
しかしながら、身体のサイズが全てを決めるわけではありません。軽量級で素晴らしいナローデッドリフターもいれば、重量級に素晴らしいスモウデッドリフターもいます。
手足の長さと胴体の比率によってどちらが最適か判断する考えも出てきています。しかし、その考えも根拠があるとは思えません。どちらかのスタンスに有利な上記のような要素は(例えば腕が長い場合)、もう片方のスタンスでも有利だからです。
スモウとナローデッドリフトを比較した場合:
- 股関節の使い方が若干変化します。ナローデッドリフトでは真っ直ぐの股関節屈曲が求められますが、スモウデッドリフトでは股関節外転が必要になります。人によって、どちらかのスタンスに向いている股関節や骨盤を持っていることもあります。
股関節伸展負荷自体はどちらもほとんど同じため、どっちかの方が股関節にとって楽ということはありませんが、股関節の構造次第では、自分の股関節にとって圧倒的に楽という可能性はあります。
- スモウデッドリフトの方が大腿四頭筋への負荷が相当高いです。スクワットが苦手な人はスモウデッドリフトも苦労するかもしれませんが、ナローデッドリフトは上手くいきます。一方で非常にスクワットが強い(特に広い足幅で)人は自然とスモウデッドリフトに慣れることが多いです。
- ナローデッドリフトの方が背中への負荷が10%程高いです。背中が強く制限因子にならない場合は、ナローデッドリフトが向いているかもしれません。背中が弱く(特に大腿四頭筋が強くて可動域もある場合)、スモウデッドリフトの方が簡単でしょう。
私からのアドバイスは、どちらのスタンスもしばらくの間試してみるということだけです。どちらにせよ両方を行うメリットはあります。スモウデッドリフトを行えば、ナローデッドリフターは腰の疲労を溜めずにデッドリフトの練習頻度を高められます。
一方でナローデッドリフトを行えば、スモウデッドリフターは、高ボリュームのスモウによって痛んだ股関節を休められます(そして背中の筋力が制限因子とならないように鍛えられます)。
どちらのスタンスを少なくとも6〜12ヶ月経験すれば、どちらのスタンスの方が強くて自然に感じるかわかってくるはずです。そしたらそのスタンスをメインとして取り組んでください。
チョーク(炭マグ)やベビーパウダーの意味は何?
ハイレベルなパワーリフターがデッドリフト前に手にチョークをつけたり、脚にベビーパウダーを塗るのを見たことがあるかもしれません。
どちらも摩擦を調整するために使われます。
チョークを使うと、チョークそのものの効果と、手の水分を吸収して滑りにくくすることで、手とバーの摩擦を増やします。これによってもっと高重量でも問題なく握れるようになります。
もし通っているジムで一般的なチョークが使えない場合(汚れるため)、チョークバッグ(体操やクライミングで使用されるチョークの粉を入れたバッグ)や液体チョークが使用可能か確認してみてください。
液体チョークは通常のチョークがアルコール媒体に溶かしたもので、塗るとすぐに乾燥するため(手の消毒液のように)、チョークだけが手に残ります。そのためチョークの粉が舞うことがないです。
一方でベビーパウダーや脚とバーの摩擦を抑えるために使われます。通常時のトレーニングでの使用はお勧めしませんが、試合で高重量を引く際は、特にロックアウトが苦手な人にとって、ベビーパウダーを太腿に塗ると全然違います。
バーを握るのが難しくなるため、塗る際は手にベビーパウダーが付かないように注意してください。脚にパウダーをかけて、パウダーボトルの底を使って太腿に満遍なく広げましょう。
挙上開始時にスネを完全に垂直にする必要はある?
セットアップの章でも触れましたが、この質問は頻繁に聞くため、よくある質問でも取り上げる意味があると思いました。
結論から言うと、ありません。挙上開始時にスネが垂直である必要はないです。スネを垂直にした方が強いかどうかは、大腿四頭筋とハムストリングの筋力バランス次第です。
大腿四頭筋が強い場合は、スネを少し前傾させて膝をバーの上にした状態で引き始めた方が、床から浮かせる際に大腿四頭筋の力を活用しやすくなります。
一方でハムストリングが強い場合は、スネを垂直にすることでお尻の位置が高くなり、ハムストリングにより強いテンションがかかることで、床からバーを浮かせる際により股関節重視の動きになりハムストリング優位になります。
重要なのは、バーが床から浮いた後に、スネと膝がバーの邪魔にならないようにどけることです。スネの前傾が長く続くと、バーが前方に流れてしまいバランスが崩れます。(運動感覚が多少あってデッドリフトの経験がそれなりにある人であれば、そこまで心配する必要はありません。動作習得中にいくつかブレブレなレップがあっても、その後は挙上開始時にスネを前傾させていたとしても、問題なく膝をバーからどかせられるようになります。)
すり上げとすくい上げ(スクープ):ロックアウトを簡単にする方法
ロックアウトが苦手な人に大きな助けになるものの、ルール的にグレーなデッドリフトのコツがあります。主にナローデッドリフトで使用できるものです。
バーが膝を越えたら、バーの下に入るように膝を前に出し、太腿を滑らせるようにして挙上を終えます。股関節がバーに近づくことにより、ロックアウト時の股関節と背中への負荷が低下しますが、若干グリップは辛くなります(太腿とバーの摩擦が増えるため)。
スムーズに一連の流れで終わるため、太腿に乗せて反動で上げていくヒッチングとは明確に違います。
一部の審判からはこのテクニックに対して赤判定(失敗)を貰うかもしれませんが、どちらにせよ大体の選手はロックアウトに近づくにつれてバーと太腿が当たっているため、主観的な判断です。
このテクニックを使いながらも成功判定を貰うコツは、一連の流れでスムーズに終えることです。挙上を終えるまでに太腿の上でバーが止まるようなことがあれば、赤判定を貰うでしょう。ちょっと膝を前に出した程度で挙上が止まらずに続けば、大体の審判は成功にしてくれます。
「デッドリフトにおける反則行為」に以下のように記載されています:
「デッドリフト挙上中に太腿でバーを支えること。バーが太腿に当たりながらも支えられていない場合は、反則にはならない。審判は疑わしきは罰せずという考えのもと判定する。」
太腿でバーを支えている写真では肌や筋肉がバーによって圧迫されているのがわかり、バーが静止していることを示しています。一連の流れで止まらずに続ける限り、試合では白判定となるはずです(正確にはルールの範囲内であるため)。
しかしながら、以下のようなロックアウトをしたら赤判定を貰うでしょう:
ロックアウトに問題がない場合は、このテクニックを習得する意味はないと思います(リスクがいかに小さくとも、反則によって失敗判定を受けるリスクを取る意味はない)。しかし、ロックアウトに悩んでいる場合は試しに練習する価値があるでしょう。
1セットあたり数レップやる際は、レップ毎に止めた方がいいのか、それともタッチアンドゴーがいいのか?
特異性という観点から、1セットで複数レップやる際は毎回止めた方が良いと主張する人がいます。1レップマックスの際はバーが止まった状態からスタートするため、その止まった状態での練習を出来る限り増やす考えです。
一方で、タッチアンドゴーの方が一般的に同重量でもより多いレップ数をこなせたり、同レップ数でも重量を増やせたりと、トレーニングボリュームが増えるため(そして筋肥大と筋力向上がその分早まるため)、タッチアンドゴーの方が良いと主張する人もいます。
私が思うに、一番重要な問いは次の通りです。高重量1レップを行う時、もしくは1RMの80%を超える重量のセットの1レップ目を行う時、テクニックが崩れてしまうかどうかという問いです。
もし崩れてしまうのであれば、セットアップの練習やテクニック定着の練習として、毎レップ止めることが重要だと思います。
高重量1レップでもフォームが固まっているのであれば、タッチアンドゴーを好む場合はやっても問題ないでしょう。
その次に重要な問いは安全性についてです。セットの後半に包むにつれて、どっちのやり方の方が安全なテクニック(腰椎伸展を保持)を保持できるかという問いです。
タッチアンドゴーの利点の一つとして、次のレップのためにポジションを保持しようと、エキセントリックで体幹に力を入れ脊柱伸展を保持させること、そしてそのレップが次に繋がり、エキセントリックで生み出した体幹の力と脊柱のポジションを保持できることが挙げられます。
毎レップ止めると一瞬身体の力を抜けるため、セット中に疲労が溜まるにつれて体幹の力が抜けて脊柱のポジションも悪化しやすくなります。
1レップ目は完璧かもしれませんが、その後のレップでは、疲労が溜まりレップ開始前に身体にかけるテンションが低下することで、どんどん怯えた猫のような見た目になります。
もちろん、あくまで一般論を述べています。タッチアンドゴーでフォームがひどい人もいますし、毎レップ止めながらも丁寧にテクニックを保つ人もいます(そもそも毎レップ止めるのはそれが目的であるべきですが)。
どちらのやり方にせよ、レップ毎に一定のフォームを保てる方があなたにとって適切だと思います。毎レップ止める強い選手もたくさんいますし、タッチアンドゴーでやる強い選手もたくさんいます。
タッチアンドゴーに決めた場合は、1レップ計算機にだけ気をつけておいてください。タッチアンドゴーだと、1RMの90%を5〜8レップ引けてしまうことも少なくはありません。
205kgを5〜8レップ引いた後に1レップ計算機を使うと、240〜255kgくらい引けると思うかもしれませんが、実際は227kg程度だとその内判明しがっかりします。デッドリフトではありがちな「問題」と注意しておきますが、タッチアンドゴーでやる時の方が大きな問題になりがちです。
広背筋の役割
このトピックに関しては、こちらの記事にすでにまとめてあります。
テクニックとセットアップの章でも触れましたが、再び解説する意味はあるでしょう。
広背筋は有意なレベルで脊柱の伸展を補助できません。しかしながら、肩と股関節、脊柱に対するバーの位置を調整することができ、腰椎と股関節伸展負荷を若干低下させ、胸椎伸展負荷を大幅に低下させます。
それにより上背部にとって挙上が非常に楽になり、股関節もしくは腰がボトルネックとなるために、挙上重量も少し伸ばすことができます。
頭のポジション
セットアップについての章で、頭のポジションに関してあまり解説がなかったことに気づくと思います。
なぜなら、一般的に重要ではないからです。
頚椎(首)を伸展させていた方が、胸椎と腰椎の伸展保持が自然と行いやすいという理由から、挙上中は上を向くべきだと主張する人もいます。
その可能性はあるでしょう。
一方で、脊柱は上から下まで中立的なアライメントであるべきという理由から、特に挙上開始時において下を向くべきだと主張する人もいます。
その可能性もわずかにあります。何千ものデッドリフトを見てきた中で、首に何か問題が起きたのは2回しかありません。どちらも軽く痛めた程度で、デッドリフト中に上を向くタイプの人でした。(首の筋肉の内いくつかは頭蓋骨のどこかしらに付着し、また鎖骨にも付着しています。鎖骨はロックアウトの際に落ちる傾向にあるので、頭が上を向いている場合、それらの筋肉を荷重ストレッチ状態にしてしまいます。)
しかし、どちらのやり方もデッドリフトの基本的な良いテクニックとして一般化される程良いとは思いません。
多くの人にとって、頭を上に向けた方が胸椎と腰椎の伸展保持が簡単とはいえ、首が中立的なポジションにある状態で腰椎と胸椎の伸展を保つ方法を学ぶのは、そこまで時間がかかりません(一般的に)。
そして、上を向くことで首を痛めるリスクが増える可能性があるかもしれませんが(「かも」です)、絶対的なリスクは依然として非常に小さいことは強調して伝えておきます。
例えば、首を痛めるリスクが2倍になったとしても、元のリスクが10,000分の1であれば、5,000分の1の確率で安全です。
どちらの頭のポジションが最適に感じるか試してみても大丈夫だと思います。
上を向いた方が自然で強く感じるのであれば、上を向いて引きましょう(強い選手の多くはこの方がロックアウトが簡単になると主張しています)。挙上開始時に下を向いていた方が自然で強く感じるのであれば、下を向いて引きましょう(強い選手の多くはこの方がバーを浮かせるのが簡単になると主張しています)。
デッドリフトのためのグリップ力を向上させる
デッドリフトのマックス重量挑戦時にバーを持っていられなかったり、ストラップの有無で挙上重量に大きな差がある場合は、グリップ力強化を最優先として取り組まなければいけません。
ですが、最初に1点だけ伝えておきます。チョークを使うことで握っていられる重量が非常に伸びるため、日頃はチョークなしでデッドリフトをする場合、グリップは制限因子ではないかもしれません。
多くの人は、デッドリフトのグリップ力トレーニングのやり方が間違っています(もしくは少なくとも非効率なやり方です)。
グリップ力には主に2種類あります。握力と保持力です。
握力はそのままです。手を閉める力をどれくらい大きく発揮できるかです。
一方で保持力は、手が開いてしまうまでどれくらい大きな力に耐えられるかという力です。
実質的に、握力はコンセントリック筋力で、保持力はアイソメトリック筋力になります。ある程度の相関関係がありますが、似たものではなく、片方が伸びたからといったもう片方が伸びるとは限りません。
しかしながら、デッドリフトでグリップ力に問題があると、ハンドグリップで鍛える人は多いです。ハンドグリップで鍛えられるのは、握力です。保持力も若干鍛えられるかもしれませんが、大したレベルではないです。
もう一つありがちな誤りが、デッドリフト時のバーと違うサイズの器具で保持力を鍛えることです。例えば、グリップ力に悩んでいる場合、ファットバーやアクセルデッドリフトがよく利用されます。
ハーフスクワットをしてATGスクワットを伸ばそうとしているようなものです。ハーフスクワットをやればATGスクワットも若干伸びるかもしれませんが、ATGスクワットをやった方がもっと伸びます。
ファットバーを使えば保持力は鍛えられますが、通常径のバーでデッドリフトを行う時の関節角度や筋長に最大限特異ではないです。ファットバーのグリップトレーニングが辛いからといって、デッドリフトに特異なグリップ力向上に対して効果的であるとは限りません。
デッドリフトの保持力を鍛えるために最適な種目は、通常のバーベルか、そのバーベルに似た径の器具を使って行えます。
最も簡単で効果的(私の中では)なデッドリフトのグリップトレーニングは、単純にデッドリフトの長時間保持です。
15〜20秒間のみ握っていられる重量を定めます。それを出来る限り長く保持し、3〜5分休んだ後に再度行います。これを週に2〜3回、3〜4セット行いましょう(通常のデッドリフト後に)。20秒間できるようになったら、重量を増やします。
難しくするためにダブルオーバーハンドでのトレーニングを好む人もいますが、私の考えとしては、特異性を最大化するためにミックスグリップかフックグリップ(自分のグリップ方法どちらか)で行った方が良いと思います。
グリップトレーニングにもう少し多様性が欲しければ、次のような方法もあります。プルアップバーに長時間掴まる(デッドリフト後に背中と僧帽筋が披露している場合は特に加重した方がいいかもしれません)、片手バーベル保持、ダブルオーバーハンのドシュラッグ・ロウイング・デッドリフト、ダンベルファーマーズウォークなどです。
デッドリフトトレーニングプログラムを解決する
デッドリフトはその他の種目どれよりも、個人に合わせたトレーニングを実施する必要があります。
良いベンチプレスやスクワットのプログラムを使えば、大半の人は優れた結果を得られます。素晴らしい結果の人もいれば、まあまあな結果の人もいますが、全体的に見るとポジティブな傾向です。
また、スクワットやベンチプレスのプログラムを調整するのは単純です。適切なボリュームを見つけて、弱点補強のための補助種目を1つ2つ入れれば、どんどん伸びていきます。
私の経験上、デッドリフトでは上記のように行っても同じ度合いで効果が出ません。私自身や今までコーチしてきた人々を見てきてわかったのは、デッドリフトはもっと調整が難しく、最適なデッドリフトプログラムは人によって非常に大きく異なるということです。
上記を踏まえ、以下が基本的な指針になります。
スクワットよりも少し疲労が溜まりやすい傾向にあるため、スクワットの½〜⅔ のボリュームからデッドリフトを始めましょう。
デッドリフト自体の頻度は低いまま、股関節を使用した種目を高頻度で行うと効果が出やすいです。全体の内50%くらいの人は週1でデッドリフトを行うのがベストで、25%は週2、15%は週1未満(3週間に2回など)、10%の人のみが3回以上がベストだと思います。
しかしながら、荷重バックレイズ・ハイパーエクステンションやルーマニアンデッドリフト、高重量ケトルベルスイング、グッドモーニングなどの股関節系種目を少なくとも週3回取り入れ、高重量による疲労を溜めずに主動筋を鍛え動作を習得した方が、大半の人はデッドリフトの成長が早いです。
デッドリフトに向いている体型(身長に対して腕が長い)の人や、スモウデッドリフターの場合は、より高頻度で高ボリュームでトレーニングできる傾向にあります。
背中の筋力が制限因子になっている人は、股関節の筋力が制限因子の人に比べて、高ボリュームや高強度のデッドリフトで疲労しやすいです。背中の補助種目に真面目に取り組めば(荷重バックレイズやハイパーエクステンション)、デッドリフトのボリューム耐久力も伸び、デッドリフトによる疲労も低下します。
テクニックが上手くなり安定するほど、扱えるデッドリフトのボリュームが増える傾向にあります。
スクワットの日に股関節や脚に疲労を感じた場合は、それでも生産的なトレーニングをできて、抑えてトレーニングしたり後日にずらすよりもトレーニングした方が良いでしょう。
しかしデッドリフトの日に股関節や背中に疲労を感じたら、身体が回復するまで1〜2日後ろ倒した方がいいです。疲労状態でハードにデッドリフトを行うとさらに疲労度が高まり、あまりメリットが無いのにその後の3〜4日がダメになってしまいます。
まとめると、スクワットやベンチプレスに比べて抑え気味にデッドリフトを行うようにし、背中の筋力強化を優先するということです。背中が強く耐久力があるほど、デッドリフトセッションが楽になり、より高頻度でデッドリフトを行えるようになります。
体型によるお尻の高さやテクニックの違い
脊柱屈曲を除き、デッドリフト挙上開始時のお尻の高さは、ネット上のフォームアドバイス専門家を最も腹立たせるでしょう。
しかし、9割の確率で、デッドリフト挙上開始時のお尻の高さは全く問題ないです。
基礎的な幾何学です。
身体には事実上長さの変わらない部位が4箇所あります。腕と脛骨、大腿骨、そして胴体です。(次章にて股関節伸展負荷の観点では脊柱は当てはまらない点を解説しますが、本章の全体感を変えるほど大きな影響は与えません。)
これらの4部位は繋がっていて、どこか1部位のポジションが変わると隣接した部位のポジションも変わります。
さらに、その内2つの部位には制限があります。腕の角度は、地面に対して垂直な位置(手とバーベルが肩の真下)と、そこから2〜3度前傾した位置(広背筋に力が入っていて手とバーベルが若干肩の後ろ)の間どこかになります。
そして挙上開始時にスネは最大で10〜20度前傾しますが、バーが床から浮くとともに実質垂直な位置に動きます。
そのため、簡単にするために腕とスネは床に対して垂直であるものという前提で考えましょう。
そうすると残るは2部位、胴体と大腿骨のみです。バーの床からの高さは20kgプレートの半径で固定のため、肩の位置も固定され(バーが床に対して垂直で長さが変わらない前提)、膝の位置も固定され(スネが床に対して垂直で長さが変わらない前提)、胴体下部と大腿骨上部が繋がる股関節の位置は1箇所のみになります。
言い換えると、基礎的な幾何学によって、一般的な状況下であれば、挙上開始時のお尻の高さは決まっていて強制されます。
その他の条件が同じだとすると:
- 腕が長いと、開始時のお尻の位置は低くなる。
- 胴体が長いと、開始時のお尻の位置は低くなる。
- 大腿骨が長いと、開始時のお尻の位置は高くなる。
- 脛骨が長いと、開始時のお尻の位置は高くなる。
腕とスネが床に対して垂直という前提を無くすと:
- 肩がより伸展して腕の前傾が強まると、開始時のお尻の位置は若干高くなる。
- スネの前傾が強まると、開始時のお尻の位置は若干低くなる。
- スネが垂直より後傾すると、開始時のお尻の位置は若干高くなる。
しかしながら、高重量における肩の伸展度合いは限られていて、最初の2.5〜5cm以降はスネの角度がそこまで前傾にならないため、上記のものはお尻の高さへの影響が小さいです。
つまり、若干スネが前傾して肩が伸展しても、腕や胴体、大腿骨、脛骨の相対的な長さに比べてお尻の高さに全然影響しません。
開始時のお尻の位置が高すぎることはあります。若干スネを前傾させた方が強く(大腿四頭筋を利用して床から浮かせる)、床からバーが浮く前にスネが前方に動く場合、お尻の位置は若干高すぎます。
スモウデッドリフターで膝が早い段階で真っ直ぐになる場合、お尻の位置は若干高すぎます(大腿四頭筋もしくは臀部が弱いのが原因で、挙上開始時にハムストリングにテンションをかけてサポートを得るために、膝とお尻が後方に動く)。
また、開始時のお尻の位置が低すぎることもあります。スネが前傾されバーの邪魔になり、バーを前方に動かしてバランスを崩すほどお尻の位置が低い場合、お尻の位置は若干低すぎます。
スネを垂直にした方が強いナローデッドリフターで、床から浮かせる時は大腿四頭筋よりもハムストリングを利用していて、最適な位置よりもスネが前傾している場合、お尻の位置は若干低すぎます。床を割き意図的にお尻をポジションに下ろすのではなくて、しゃがみこんでセットアップする場合、開始時のお尻の位置が若干低すぎるかもしれません。
しかしながら大半は、デッドリフト挙上開始時のお尻の高さは腕と胴体、大腿骨、脛骨の相対的な長さによって決まります。9割の確率で、デッドリフトの際にお尻の位置が高いと酷評されている人は、高いお尻の位置で引かなければいけない体型をしているだけです。
デッドリフトの際にお尻の位置が低いと言われる人は、低いお尻の位置で引かなければいけない体型をしているだけです。他の人とまったく同じように見えなくても、十分に問題のないテクニックになり得ます。
脊柱屈曲と股関節伸展負荷
「弱点克服」の章で触れたように、デッドリフトで脊柱が曲がってしまう原因が脊柱起立筋の弱さだとは限りません。
脊柱が屈曲すると、前後の長さが少し「短く」なります。それにより股関節がバーと近づくため、股関節伸展負荷が低下します。
どれくらい屈曲するかによって股関節伸展負荷の低下度合いが決まりますが、5%程度が平均的でしょう。
そのため、股関節伸展筋力が制限因子の人の多くは、脊柱を屈曲させるとより高重量を引けます。背中が弱いから曲がっているのではありません。
背中を伸展させた状態で引くと1RMの95%の重量で股関節伸展筋群に限界が来て、背中を屈曲させることで1RMの100%でも、股関節伸展筋群への負荷を95%の時と同じくらいに出来るからです。
股関節が弱いのか確認する方法として、1RMの90〜95%を脊柱の屈曲なしで引けるのに、1RMでは少し乱れてしまう場合、脊柱伸展を保持するための脊柱起立筋の筋力が足りないのではなく、股関節伸展筋群が弱いために、脊柱を屈曲して補っているでしょう。
反対に、1RMの90%未満で脊柱が屈曲し始める場合は(全力で伸展保持しようとしても)、脊柱起立筋が弱点かもしれません。
特に脊柱伸展を保持できないレベルの重量を引く際に、ロックアウトで脊柱を再伸展できる場合は(脊柱起立筋の弱さが原因で屈曲しているという前提)、直感とは反するかもしれません。しかし脊柱起立筋に順次にかかる負荷について考えれば理解できます。
挙上開始時に胴体が前傾している際が、脊柱起立筋への負荷が最大の時です。しかしながら、股関節を伸展させ、ロックアウトに近づき前傾が弱まるにつれ、脊柱伸展負荷は劇的に減少し、問題なく脊柱を再伸展できます。
例えを1つ紹介します。1RMの110%のスクワットをスティッキングポイントでアイソメトリックで保持しろと言われた場合、おそらく出来ないでしょう。
大腿四頭筋と股関節伸展筋群にとって最大を超えた重量を扱って、挙上中で最も難しいポジションを保持しろと言われているのです。しかしながら、同重量でもクォータースクワットをやれと言われたら、特に問題なく出来るでしょう。
これが挙上開始時に脊柱起立筋がアイソメトリックで保持できない重量でもデッドリフトを完了させられる理由です。デッドリフト挙上開始時が上記のスクワットのスティッキングポイントに当たります。脊柱起立筋にとって最も辛いポジションであり、一定の重量になると脊柱伸展を保持できなくなります。
しかしながら、股関節が伸展し胴体の前傾が弱まるにつれて、同重量のクォータースクワットの例のように、バイオメカニクス的にもっと楽なポジションになるため、簡単に脊柱を伸展できるのです。
デッドリフトで背中が曲がるのはどれくらい危険か?
デッドリフトの話題の中で、脊柱屈曲ほど荒れるものはないと思います。
どんな曲がり方でも、脊柱屈曲により全ての椎間板が飛び出して一生身体に障害を抱えるという主張をする人もいます。
一方で、選手生命の長い間、脊柱を屈曲させてデッドリフトをしても背中の怪我がないエリートパワーリフターがいることを指摘する人もいます。
前者は、人間の個人差や身体組織の適応性を無視しています。他の人よりも椎間板の耐久力が強く、負荷を上手く処理できる人は存在します。
さらに、他の身体組織が荷重に対して適応するように、椎間板も適応力があります。Lenoid Tarenenkoのようなテクニックで、あなたがいきなり204kg以上スナッチを本日行ったとしたら、前十字靭帯や膝内側側副靭帯、内側半月板の損傷が十分にあり得ます。
しかしながら、ゆっくりと段階的にそして何度も重量を増やしていくことで、膝がこのポジションでかかる負荷に適応したため、Tarenenkoは選手生命の間、このテクニックを怪我することなく続けています(その他のウェイトリフターも同様です)。
デッドリフトにおける少しの脊柱屈曲についても同じことが言えるでしょう。Konstantin Konstantinovsのような脊柱屈曲度合いでいきなり408kg超えの重量をデッドリフトしようとしたら、椎間板損傷のリスクは無視できません(もしくは少なくとも長期的に蓄積してしまう急性の退行性変化が起こります)。
しかしながら、ウェイトリフターが非常に低いポジションでスナッチをキャッチするために必要な、股関節内旋と膝の外反に耐えきる膝の靭帯が徐々に強化されるように、Konstantinovsの椎間板も生涯強化されていったのでしょう。
このトピックの研究はまだ浅いですが、今のところは用量-反応関係があるように思われます。
荷重によるストレスによって椎間板は強化され再生させますが、過度な荷重ストレスでは退行性変化が生じ得ます。正確な詳細を知るにはまだまだ時間がかかるでしょう。
後者の考え、つまり脊柱を屈曲しながらデッドリフトをしても全く問題ないという考えは、怪我の経験がなく、今まで大丈夫だったというバイアスがかかっていると思えます。
生涯脊柱が大きく屈曲している状態で高重量デッドリフトをし続けても、損傷が起きない人がいることは事実です。しかしながら、それでは怪我をして二度と連絡が取れなくなった人たちのことを考慮できていません。
椎間板にかかる圧縮力とせん断力は、脊柱が屈曲するにつれて増加します。特に屈曲可動域の限界範囲では、脊柱への負荷がますます増加するため、退行性変化がさらに悪化すると考えられます。この変化がその日のうちには問題にならないかもしれませんが、長期的に見ると椎間板ヘルニア発症の可能性を高めるでしょう。
なので、どちらも極端な考え方は完璧ではないと思います。
基本的な情報をまずは整理してみましょう。
- 他のスポーツに比べて、パワーリフティングとウェイトリフリティングでの怪我率は比較的低いとわかっています。
怪我率はトライアスロンのトレーニングと似ています。長距離走は怪我率がもう少し高い傾向にあり、チームスポーツの怪我率はもっと高い傾向です。
パワーリフティングにはデッドリフトがあり、ウェイトリフティングで頻繁に行うクリーンプルやスナッチプルはデッドリフトに似通っています。これらの研究からは長期的な退行性変化についてわかりませんが、急性の怪我のリスクは比較的低いことがわかります。
- パワーリフター内での怪我率を調べた6つの研究の内2つのみが、腰の怪我が最も頻繁に発生すると示しています。
ウェイトリフターの怪我率を調べた研究は2つしかなく、どちらも腰の怪我が最も頻繁に発生すると示しています。
これらから、多少の脊柱屈曲はそこまでリスクがないかもしれない、という根拠が確認できます(弱い間接的根拠ですが)。多くのパワーリフターは多少脊柱を屈曲させてデッドリフトしますが、上級ウェイトリフターはクリーンプルやスナッチプルにおいて脊柱を屈曲させることはありません。
- 「中立な脊柱」はあるポジションというよりは、ある範囲です。
前述した2点は興味深い比較ではありますが、長期的な怪我のリスクについてはよくわかりません。しかしながら、最後の項目は最も重要なものになります。
過度の脊柱伸展は特に椎間関節にダメージを蓄積し、問題になり得ます。反対に過度の脊柱屈曲も椎間板の退行性変化やヘルニアを引き起こし問題になります。しかしながら、これら2つの過度な領域を除いた、安全で耐久力の強い範囲は非常に広いです。
過度な屈曲や伸展を避けても、「自然な範囲」を保ちながら、椎間関節あたり少なくとも平均して〜1.5度は屈曲や伸展を行えます。つまり、多少の脊柱屈曲はおそらく問題にならないということです。
また、背中を曲げるデッドリフターの例として挙げられるようなエリートパワーリフターのほとんどは、そこまで脊柱屈曲しておらず、少なくとも可動域の限界範囲ではないということも言っておきます。
背中を曲げるデッドリフターとしてよく挙げられるKonstantinovsを例に見てみましょう。
「中立的な」脊柱のポジションをある1点だとしたらそれよりも屈曲していますが、自然な範囲に十分収まっているとも考えられます(胸椎は違うかもしれませんが、特に腰椎は)。バーが床から浮く瞬間の脊柱のポジションに注目してください。
セットアップする際に胸椎は非常に屈曲していますが、引き始める際はそこまで屈曲していません。胸椎が若干屈曲していますが、腰椎は伸展していることがわかるでしょう。胸椎よりも腰椎の方が問題になりがちです。
また、デッドリフトの脊柱屈曲を判断する際は、脊柱に動きがあったからといって慌てるのではなく、脊柱そのもののポジションを確認することが重要だと言っておきます。
デッドリフトのセットアップで背中が非常に反っていて、過伸展の可能性がある人はたくさんいます。最初のポジションから若干脊柱が屈曲するかもしれませんが、中立的なポジションに戻っているだけ、もしくは中立的な範囲内で若干屈曲したポジションに動いているだけかもしれません。
本章をまとめると以下の通りです。
趣味であったり、パワーリフティングやストロングマンでの競技目的以外でデッドリフトを行っている場合は、常に中立的な脊柱を保ってデッドリフトをするのが安全でしょう。
多少屈曲しても大ごとにはなりませんが、椎間板損傷のリスクを少し高めます。明確な見返りがないのにリスクだけが増えてしまうことになります。
反対にパワーリフティングやストリングマンのためにデッドリフトを行っている場合は、中立的な範囲内で可動域の限界範囲に入らない限り、多少の脊柱屈曲は問題ないでしょう。
完璧に中立な脊柱を保持している時よりは若干リスクが高いかもしれませんが、少し屈曲して〜5%ほど高重量を引けるかもしれないので、トレードオフとして判断していいでしょう。
とはいっても、トレーニング中は毎レップ脊柱伸展に努めることを強くお勧めします。適当にやって必要以上に脊柱を屈曲させたり、必要以上に頻繁に屈曲させないようにしましょう。
また、屈曲せざるを得ないセット数には、1〜2週あたり1〜2セット程度に制限をかけることをお勧めします。若干脊柱を屈曲せざるを得ない重量を定期的に扱うことで、脊柱屈曲が必要となった時に安全に行えるように、脊柱を安定させる動作スキルを習得できます。
しかしながら頻繁に脊柱屈曲状態でトレーニングすると怪我のリスクを高めるほど十分な見返りがないのに、不必要に怪我のリスクを高めてしまうでしょう。
柔軟性や背中が曲がってしまう問題を解決する方法
柔軟性と(過度な)脊柱屈曲については一緒に解説しようと思います。多くの場合、マックスではない重量で過度に脊柱が屈曲している場合(股関節伸展筋群が弱いために脊柱が屈曲しているのではない)、柔軟性に原因があります。
当たり前ですが、デッドリフトをする前に、バーに身体をかがめなければいけません。身体をかがめるために必要な股関節柔軟性がなければ、脊柱を屈曲させてその分を補うことになります。
セットアップ脊柱を屈曲させた場合は9割の確率で、ロックアウトに近くまでは挙上中も屈曲された状態です。セットアップで良いポジションに入れるように柔軟性を改善すれば、問題が解決することが多いです。
それ以外に脊柱を屈曲させてしまうと考えられるケース(重量に関係なく)として、運動制御力が足りていないことが挙げられます。重量を増やすと、そもそもどのように脊柱伸展を保持するかがわからないのです。
どちらのケースも、同じ解決方法で改善できます。
1.漸進性可動域
柔軟性が欠けていて、床から引くとどうしても背中が曲がってしまう場合は、床から引くのは一旦やめましょう。同様に、胴体の前傾が強まると脊柱や骨盤のコントロールが難しくなる場合は、床から引くのは一旦やめましょう。
挙上中に脊柱伸展を保持できる高さから、ラックプルやブロックプルを行います。柔軟性が少し欠けている程度であれば、スネの真ん中の高さでのラックプルやブロックプルをやればいいかもしれません。
デッドリフト初心者で脊柱伸展を保持する感覚がない場合は、膝上の高さでのラックプルやブロックプルから始めるといいかもしれません。
セッション毎に、可動域を広げられるようにに努力してください。少しずつ広げるのが最適です。
膝のお皿の下から始めたとしたら、次のセッションではそこから2.5cm下げてデッドリフトしてください。ジムにその小さい単位で調整できるブロックやピンがない場合は、5kgプレートに乗っかれば同じことができます。
新しい可動域で脊柱伸展を保持できたら、成功です。出来なかった場合は、もう一度前の可動域でトレーニングし、次回デッドリフトする際に若干可動域を広くしてみてください。
これにより、漸進的に広い可動域で、股関節の柔軟性と関節角度特有の筋力を向上できます。漸進的に可動域を広くすることで荷重状態で脊柱伸展を保持する運動制御力を向上させ、脊柱や骨盤のポジションの感覚も徐々に身についてきます。
床から引けるようになるまで3〜4週間かかるかもしれませんし、3〜4ヶ月かかるかもしれません。慌てずに、身体が許す範囲で可動域を広くしていきましょう。
2.ストレッチとポーズを取り入れたルーマニアンデッドリフト
上記の漸進性可動域デッドリフトに加えて、ポジションの感覚と股関節柔軟性向上のためにはポーズルーマニアンデッドリフトも非常に効果的です。
可動域向上にはエキセントリック種目が非常に優れています。一般的に取り組まれるストレッチやフォームロールよりもっと効果的なことが多いです。
ルーマニアンデッドリフトでは、エキセントリック部分をコントロールしなければいけなく、デッドリフト特有の動作で股関節柔軟性を向上させるためにハムストリングを荷重ストレッチできます。
5〜8レップのセットで、エキセントリックは3〜5秒かけ、毎レップボトムのストレッチポジションで2〜3秒ポーズしましょう。
セット中は常に背中のアーチに集中し、ハムストリングにストレッチを感じるまでバーを降ろし(耐えきれないストレッチではなく、若干不快なくらい)、ポーズし、引き上げます。レップ毎セット毎、そしてセッション毎にに少し深く降ろせるように努めましょう。
ルーマニアンデッドリフトで床から5〜7.5cmくらいの位置までバーを降ろせるようになったら、背中を曲げることなく床からデッドリフトできる運動制御力と股関節柔軟性が身についているでしょう。そのポジションから膝を少し曲げるだけで、デッドリフトのスタートポジションになります。
これ以外にデッドリフト中に背中が曲がってしまう主な原因は2つあり、セットアップに関係しています。床から浮かせる前にバーのたわみを取らず(もしくは身体にテンションをかけず)にぶっこ抜く人や、スネから遠い位置にバーをセットアップする人の方が背中が曲がりがちです。
そもそも床引きデッドリフトは必要か?
一般的に、可動域が広いほど筋肥大や「基礎的」筋力に効果的です。(とはいえ、パーシャルデッドリフトで強くなりたいのであれば、筋力は可動域に特異であるため、パーシャルデッドリフトだけをやった方が強くなるでしょう。)
しかしながら、柔軟性の改善を図った後も、安全に床引きデッドリフトを行えない人はいます。
あまり驚くことではないでしょう。膝が曲がった状態での通常の股関節屈曲可動域は110〜130度で、デッドリフトの挙上開始時はスモウでもナローでも115度程度は股関節屈曲が必要になります。
股関節屈曲可動域が110度しかない場合、もしくは腕が短くで床引きデッドリフトのために120度の股関節屈曲が必要な場合、いくら柔軟性向上ドリルを行なってもデッドリフトのセットアップで背中を曲げる必要性が出てきます。
パワーリフティング競技を行いたい場合は、競技の要件であるため、床引きデッドリフトをやらなければいけません。日頃のトレーニングはブロックプルをたくさん行えば、床引きでは背中を曲げなければいけなくても背中の疲労を抑えられるかもしれません(Brad GillinghamやAndy Boltonといった素晴らしいデッドリフターはこの戦略で上手くいっています)。
しかし間違えないでください。試合に準備する際は、何かしらの形で床引きデッドリフトをやる必要があります。
しかしながら、パワーリフティング競技を行う予定がないのであれば、床引きデッドリフトをしなければいけない理由は特にありません。あなたにとっての最大可動域は、ボトムで脊柱が屈曲せずに行える最大可動域ということになります。
これが正しく感じない方は、そもそも床引きデッドリフトも最大可動域を恣意的に定義しているということを覚えておいてください。デッドリフトの主な目的は、脊柱起立筋と股関節伸展筋群の強化です。床引きを行うために必要な股関節屈曲度や胴体前傾度は人によって様々です。
ルーマニアンデッドリフトやデフィシットデッドリフトと比べてプラス15度股関節を屈曲させるだけの人もいます。そういった人の場合は、床引きデッドリフトも最大可動域ではなくてパーシャル可動域の種目だと言えるでしょう。
同様に、床引きデッドリフトが過度の可動域になってしまう人もいます。床引きを最大可動域と定義するのはそこまで悪くないかもしれませんが、プレートの半径だけで完全に恣意的に定義されてしまっています。
パワーリフティング出場の予定がなく、運動制御と柔軟性改善を図ったにも関わらず床引きが出来ない場合は、床引きデッドリフトを行う必要性は特にありません。
リフティングベルトはいつ使えばいいのか?
端的な回答は、使いたいときに使えばいい、です。
ベルトを使ってトレーニングすると「体幹」が弱くなるというのも迷信でしょう(ベルトなしでトレーニングするよりも、ベルトありでトレーニングした方が「体幹」が強化されるというのも同様に迷信だと思えます)。
しかしながら、人によっては10cm幅のベルトが原因でデッドリフトのセットアップが乱れることもありますが、ベルトをつけることで一般的にパフォーマンスが向上します。
ベルトをつけた方が高重量をひけて違和感がないのであれば、つけましょう。ベルトをつけると違和感があるのであれば、セットアップに影響が出ないようにデッドリフトでは幅が狭いデッドリフトを試してみてもいいかもしれません。ベルトをつけない方が強くて感覚が良いのであれば、つけないでいいです。
ベルトに関してもっと詳しく学びたい方は、こちらの記事を読んでみてください。
デッドリフトバーとは何か?
デッドリフト用に設計されたバーが置いてあるジムもあり、パワーリフティング連盟によってはそれらのバーの使用が認められています。
標準的パワーバーとデッドリフトバーには主に3つの違いがあります。
1.標準的パワーバーは直径が28〜29mmで、デッドリフトバーはもう少し細く、直径27mm程度です。1〜2mmなんて大した差に聞こえないかもしれませんが、グリップが非常に楽になり(特に小さめの手でフックグリップの場合)、バーがたわみやすくなります。
2.デッドリフトバーは標準的パワーバーよりも少し長く、スモウデッドリフトで足幅を広げられます。バーベルのスリーブ(プレートをつける部分)が離れるためバーの中心から重量が遠ざかることで、さらにバーがたわみやすくなります。
3.デッドリフトバーはより強力なローレット加工がしてあります。高レップや高セットでは非常に不快ですが、グリップに問題を抱えている場合は、ローレットのおかげでより高重量を保持できるようになります。
これら3つをまとめると、デッドリフトバーはグリップ保持がより簡単で、バーがよりたわむため、ほとんどの場合は通常よりも高重量をあげられます。床からバーが浮く前にたわみによって、手と股関節と肩が2.5〜5cm動かせるため、実質的に可動域を若干狭めるのです。
デッドリフトを使う前からすでにかなり強い場合は(272〜318kg超え)、慣れるまでに数セッション必要かもしれません。バーのたわみが強いため、バランス保持に苦戦することがたまにあり、慣れているよりも床から浮くのが遅れるため、ファーストプルのタイミングが乱れることもあります。227kg以下の人であれば、フォームが乱れるほどにバーがたわまないでしょう。
デッドリフトバーを使うことで非常に重量を伸ばせる人もいれば、標準的パワーバーと同程度の人もいます。デッドリフトバーを使うメリットが最も大きい人は、グリップが制限因子の人と、床から浮かせるのが弱点の人です(スネの中間や膝の高さといった一般的なスティッキングポイントではなく)。
これらの人たちはデッドリフトバーで最大10%挙上重量を伸ばせます。グリップや床からバーを浮かせるのに問題を抱えていないのであれば、デッドリフトバーでそこまで重量は伸びないでしょう。
床からの挙上が若干速くなることで少し伸びるかもしれませんが、1RMの差は5〜10kg程度か、もしくは一切差がないレベルかもしれません。
大抵の場合、デッドリフトバーでトレーニングするかどうかは好みの問題です。自分の国のIPFに加盟している団体でパワーリフティングに出場する場合は、競技で認められていないためデッドリフトバーでトレーニングしない方がいいでしょう。競技でデッドリフトバーを使用する場合は、トレーニングでもデッドリフトバーを使用した方がいいです(ジムに置いてあれば)。それ以外の人は、どちらを使うかは重要ではないです。
スネを擦ってしまうのはどうしたらいいか?
オプション1:擦って、誇らしいデッドリフトの傷を見せつけましょう。バーに血が着いてしまった時だけ拭き取るように注意してください。
オプション2:長いソックスや長いズボン、もしくはニースリーブをスネにつけて、バーがスネを擦らないようにしましょう。
一般的に、スネが擦れてしまうのは悪いことではないです。バーは身体の近くにあって欲しいので、スネがたまに擦れてしまうのは避けられません。
挙上開始時にスネがかなり前傾していて最初のウォームアップセットでスネ全体が血だらけになるのであれば、セットアップを改善して、お尻をより高い位置で挙上を開始する必要があるかもしれません。
そうでなければ、スネを何かしらの布で覆って、バーが擦れて血が出ないようにするのがベストです。ニースリーブはソックスやスウェットよりも分厚いため、一番効果があるでしょう。
デッドリフトのバリエーションやその働き
ナローデッドリフト:主要なデッドリフトスタンス2つの内、より背中への負荷が強く、股関節伸展筋群への負荷はスモウと同程度です。
スモウデッドリフト:主要なデッドリフトスタンス2つの内、より大腿四頭筋への負荷が強く、股関節伸展筋群への負荷はナローと同程度です。
ブロック/ラックデッドリフト:バー/プレートを通常より高い位置で行うデッドリフト。ブロックデッドリフト(ブロックやマットの上にプレートを置く)の方がバーを転がせ、セットアップが自然に感じるため好まれやすいです。
またブロックデッドリフトの方がバーを傷つける可能性も低いです。ラックデッドリフト(パワーラックのセーフティバーの上にバーを置く)の方がセットアップが難しく、強くセーフティーバーにバーを載せると、バーが永久に曲がってしまいます。
ブロック/ラックプルはより高重量を扱えるため、過負荷をかけるには効果的です。床引きを高頻度でやると腰が疲労してしまう場合は、ブロック/ラックプルをマックス未満の重量で行うことで疲労を抑えられます。
床から5〜20cm高い位置で行うのが最もデッドリフトのパフォーマンスに繋がりやすいですが、ロックアウトに問題を抱えている場合は、膝上からブロック/ラックプルを行うのも役に立ちます。
デフィシットデッドリフト:ブロックやプレートなどに乗って高い位置から行うデッドリフト。可動域を広げてトレーニングできるため、床からの挙上が弱かったり、純粋に負荷を高くしたい人に役立ちます。
ルーマニアンデッドリフト:ルーマニアンデッドリフトはトップポジションからスタートします。1レップ目の前に通常のデッドリフトを床から持ち上げても良いですし、パワーラックに乗せて持ち上げてから後ろに移動しても良いです。
そしたら背中をアーチさせて、少しだけ膝を曲げ、ハムストリングにストレッチを感じるまで股関節を曲げて、引き戻します。
ルーマニアンデッドリフトは、背中の筋力が制限因子とならずにハムストリングを集中して鍛えられる素晴らしい種目です。
スティッフレギッドデッドリフト:スティッフレギットデッドリフトの働きはルーマニアンデッドリフトと同じですが、毎レップ床から上げるという点が異なります。そのため、ルーマニアンデッドリフトよりも股関節柔軟性が必要となります。
トラップバーデッドリフト:中立的なグリップで握ることが出来る、身体の周囲を囲うバーで行うデッドリフト。トラップバーはスネを擦ることがないため、膝の前方移動に制限がありません。それにより、少しだけ膝優位で股関節の優位性が下がり(通常のデッドリフトとの差は一般的に言われるよりも小さいですが)、5〜10%ほど高重量を引けます。
バンドデッドリフト:地面に固定したバンドをバーに引っ掛けて行われるデッドリフト。バンドによる負荷はトップに近づくにつれ高くなります(指数関数的に)。バンドデッドリフトはロックアウトの筋力を強化し、また床から速く挙上する能力を身に付けることができます。
ロックアウトに近づくにつれ急速にバンドの負荷が高まるため、ロックアウトするために強い勢いが必要となります。そのため自然と床から勢いよく引く癖がつきます。
チェーンデッドリフト:バーにチェーンをつけたデッドリフト。バンドデッドリフトと同様の効果がありますが、負荷の増え方はバンドデッドリフト程ではありません。チェーンが床から離れるに従って重量が増加していくため、重量は指数関数的ではなく一定の速度で増加します。
チェーンデッドリフトでは、バンドデッドリフト程不快な感覚なしに、ロックアウトの筋力や床からの挙上速度を身に付けられます。
リバースバンドデッドリフト:パワーラック上部からバンドをバーに引っ掛けて行うデッドリフト。バンドの影響が反対になります。
負荷を増やすのではなく、開始時に挙上をサポートし、ロックアウトに近づくにつれてサポートが弱まっていきます。リバースバンドデッドリフトは、一般的に高重量に慣れるため、ロックアウトの弱点を改善するために使用されます。
ポーズデッドリフト:挙上の様々な部分でポーズするデッドリフト(一般的には床からバーが浮いた直後や膝の高さ)。セットアップの章で解説したように、ポーズデッドリフトはバランスを崩してしまう問題や、挙上中に正しいポジションを取る練習に非常に効果的な種目です。
膝までのデッドリフト:その名の通り、膝の高さまでのみ行うデッドリフトです。可動域は狭いですが、大半の人にとって最も弱い部分を行います。膝までのデッドリフトを行うことで、フル可動域で行うほど疲労を溜めることなくボトムの筋力やテクニックを向上させられます。
スナッチグリップデッドリフト:スナッチグリップは通常のデッドリフトを、一般的に81cmラインよりも外側の非常に広い手幅で行うデッドリフトです。スナッチグリップデッドリフトはデフィシットデッドリフトに似ています。手幅が広いため、可動域が広くなります。
デフィシットデッドリフトと違う点は、ロックアウトが脚/骨盤の通常より高い位置になるため、挙上トップでの可動域も広がるということです。そのため、床からやロックアウトが弱点の人にとって効果的な補助種目になります。フックグリップでない限り、スナッチグリップデッドリフトにはストラップが必要となるでしょう。
手幅が非常に広いため、ミックスグリップだと逆手で握るのが非常に不快です。
シングルレッグデッドリフト:その名の通り、シングルレッグデッドリフトは片足で行うデッドリフトです。目立ちたがりな種目に見えて、重量も扱えないためパワーリフターにはあまり好かれていません。
しかしながら、股関節外転筋や外旋筋のストレッチや強化に非常に効果的で、股関節を健康に保ち、高重量スクワットやデッドリフトのためにコンディションを整えます。
いつストラップを使ってデッドリフトを使えばいいのか?ストラップの使用方法とタイミング
デッドリフトでストラップを使うことで高重量を長時間保持できるようになります(レップ数を増やせるなど)。
ストラップを使って引くのはずるい、ストラップを使って引くのは危険(保持できる重量以上を引くのは「自然」ではないため、怪我しやすくなる)、などと主張して、ストラップを嫌悪する人もいます。
しかしながら、ストラップの使用によって怪我のリスクが高まるという根拠は存在しません。どちらかと言えば、ミックスグリップの人はストラップを使うことで上腕二頭筋断裂のリスクを低下させられるかもしれません。
パワーリフターであれば、何かしらはストラップなしで行い、マックス重量を試合で引けるようにグリップを強くしておくべきです。
しかしながら、1RMでグリップに問題がないのであれば、ストラップの使用を避ける理由もないと思います。(パワーリフターでなければ、ストラップを頻繁に使用してはいけないという理由もありません。)
ストラップの使用には、2つのメリットがあります。手を保護する、背中と股関節トレーニングでグリップが制限因子にならないようにしてくれます。
手を保護する
経験談かもしれませんが、トレーニングでストラップの使用頻度を増やしたパワーリフターからぐちを聞いたことがありません。
特に高ボリュームでデッドリフトを行っている場合、つまり高セット高レップで週に数回行っている場合、手への負担が大きいです。特に手に食い込むようなローレットのあるバーでトレーニングする場合はさらに負担があります。
最悪のケースでは、マメが潰れ、回復までしばらくかかるため、バーを強く握る必要がある種目(デッドリフトやロウイング、懸垂、シュラッグなど)を抑える必要が出てきます。
そうならなかったとしても、手が疲労していて痛みやすい場合、手の神経が過度に刺激されていて何かを握ると神経系にネガティブな信号がたくさん送られるためか、他のトレーニングの感覚が悪くなり質が落ちます。
私の経験では(特にユニークな経験ではありません)、ストラップなしではなくストラップを使用して同様のデッドリフトを行った場合は、その後数日の疲労感が少なく、他の種目のトレーニングの生産性が高まります。
グリップ力が制限因子にならないようにする
多くの人はデッドリフト1RMに必要なグリップ力がありますが、ハードなデッドリフトセッションを終えるとグリップは疲労します。
317kgを1レップであれば簡単にグリップできるかもしれませんが、250kgを5レップ数セットだったり、227kgを8レップ数セットだったりの終盤では握るのが辛くなってきます。
そのような場合は、ストラップの使用を避ける理由が見当たりません。必要な時はグリップ力が制限因子になっておらず(試合で)、脊柱起立筋や股関節伸展筋群を最大限鍛えたい時に制限因子になってしまっています。
デッドリフトでストラップをただ単に使いたくないのであれば、それは全然問題ありません。しかしながら、ストラップを使ってデッドリフトを行うべき理由もたくさんあり、試合でグリップ力が制限因子にならない大半のパワーリフターは、特に高ボリュームでデッドリフトを行う場合は、トレーニングでストラップの使用頻度を増やした方がメリットがあると考えています。
トラップバーでデッドリフトを行ってもいいのか?
そろそろ私の考えを理解してきているかもしれません。パワーリフターであれば、トレーニングの大半は試合同様に練習し、デッドリフトもストレートバーで行うべきだというものです。(トラップバーデッドリフトも補助種目として、もしくは背中の疲労を抑えながらデッドリフトの動作を鍛えるために、試合から離れた時期に1〜2サイクル使用するのは問題ありません。)
パワーリフターでなければ、トラップバーでデッドリフトしても全然大丈夫です。というより、その方が望ましいかもしれません。
こちらの研究では、上級トレーニーが1RMの80%まで、10%ずつ増やしながらストレートバーとトラップバーデッドリフトを行いました。
70〜80%の重量では、股関節や脊柱モーメントがストレートバーの方が10%ほど高く、トラップバーの方が膝モーメントが2倍ほど高かったです(とはいっても、同様のトレーニング経験を持った人のスクワットと比較するとトラップバーの膝モーメントは30〜40%程度で、最大には程遠いです。)。
さらに、トラップバーの方がピーク力、ピークパワー、ピーク速度が高い結果となり、スポーツへの効果としては優れたトレーニングだという可能性も示しています。
また、股関節と脊柱モーメントが高いということが実用性があるのか、という点には疑問が残ります。トラップバーの方が被験者たちは〜8%ほど高重量を引けていましたが(265kg vs 244kg)、ストレートバーの1RMを基準としています。
トラップバーの80%とストレートバーの80%を比較していれば、股関節と脊柱モーメントは、ストレートバーの1RM重量を基準とした時の10%の差異よりは小さくなったと考えられます。
最近の研究では、前述した研究の結果が強められています。ストレートバーではハムストリングと脊柱起立筋の筋電図が少し高く、トラップバーでは大腿四頭筋の筋電図、ピークパワー、ピーク力、ピーク速度が少し高い結果でした。
端的に言うと、これら2種類の差異は思われているよりも小さいということです。パワーリフターはストレートバーでトレーニングするべきです。パワーリフターでない人は、主に好みの問題になります。
しかしながら、トラップバーの方が習得が容易な傾向があり、一定の重量においてピーク力、パワー、速度が高い傾向があるため、非パワーリフタにはストレートバーよりもトラップバーデッドリフトの方が若干優れていると思われます。
ストレートバーデッドリフトへの移行
デッドリフト初心者であったり、初心者をコーチングしていて、通常のデッドリフトが最初は違和感がある場合、以下のような順序で動作を習得する、もしくは教えるといいです。
- 股関節を曲げる動作を習得することから始めましょう。この股関節の動作に慣れるための方法を色々学びたければこの記事が良いですが、2つの単純なドリルを通して動作を習得できます。
1a. 背中を壁につけ、足を壁から7.5cmほど離してください。そして膝を若干曲げます。胸を張ったまま、お尻が壁にちょうど当たるまで後ろに突き出してください。2.5cm程前に進んで、上記を繰り返します。そしてまた2.5cm前に進みます。
これを膝を曲げずに胸を張ったまま壁にお尻をちょうど当てられるとこまで繰り返します。その後、壁から離れてこの動作を練習します。
1b. 荷重するため、軽量のダンベルやケトルベルを持って、胸骨の前に保持します。その状態で1aのドリルを行ってください。2セット5〜10レップ程度行いましょう。簡単に行えるべきです。
- 股関節を曲げる感覚を掴んだら、ケトルベルデッドリフトに移行します。ケトルベルがなければ、ダンベルの片側を両手で支えるダンベルデッドリフトでも大丈夫です。
ケトルベルを足の間におき、股関節を曲げて身体を降ろします。背中を曲げずにケトルベルまで降りるためには、先ほどのドリルよりも膝を曲げないといけないかもしれませんが、必要以上に曲げないでください。スクワットではなく、ヒップヒンジ(股関節を曲げる)です。
胸
を張ったまま股関節を前に突き出す動きでケトルベルを持って身体を起こします。股関節を曲げてケトルベルを地面に降ろします。
胸を張って、少しだけ膝を曲げて、お尻を後ろに突き出しましょう。これを数セット5〜10レップ行います。18〜23kg程度で問題なく行えるようになったら、次のステップに移行します。
3a. パワーリフターでなくトラップバーデッドリフトをやりたい場合は、この時点でトラップバーデッドリフトに移行しましょう。バーだけから始めても大丈夫です。
股関節の曲げ方を維持しながら、ナローデッドリフトのセットアップの章を確認してみてください。その章の内容の95%はトラップバーデッドリフトにも適応できます(バーを転がす、スネを擦る、トラップバーでは中立なグリップのためバーの握り方を除いて)。
3b. ストレートバーデッドリフトに移行したい場合は、この時点ではルーマニアンデッドリフトをやりましょう。ルーマニアンデッドリフトは挙上中バーが脚の前に存在して、股関節をさらに後ろに曲げて胴体を前傾させなければいけない点を除けば、ケトルベルデッドリフトと非常に似ていると感じるはずです。
動作イメージも同じです。胸を張って股関節を曲げてスタートし、胸を張り続けながら股間ん説をバーに突き出して引き戻します。
60kgで(もしくは20kgと同じ直径の10kgプレートがある場合は40kg)地面から7.5cm以内のところまでルーマニアンデッドリフト出来るようになったら、床引きデッドリフトに移行する準備が出来ています。
- ルーマニアンデッドリフトに慣れて強くなったけれども、地面から5〜7.5cm以内にバーを降ろす柔軟性がない場合は、「柔軟性や背中が曲がってしまう問題を解決する方法」でストレートバーデッドリフトに移行するコツを学んでみてください。
まとめ
本ガイドがインターネット上で最も正確で網羅されたデッドリフトのガイドであって欲しいので、何か質問がありましたら、ぜひお聞きしたいです。ここまでガイドを読んであなたのデッドリフトに関する疑問が解けていなければ、もしくはデッドリフトで抱えている問題が解説されていなければ、コメントを入れてください。
私の参考文献に興味がある方は、下のリンクか(デッドリフトに関する基礎的な研究)、もしくは文中にテキストリンク(ある特定な主張やポジションを支持するもの)を入れています。
デッドリフトガイドが気に入った場合は、ぜひスクワットガイドやベンチプレスガイドを読んで、本記事と同じくらい詳細に学んでみてください。また、本ガイドをいつでも振り返られるように、ぜひPDF版をダウンロードしていってください。(訳注:原文記事よりダウンロード頂けます。)
- Aasa. Individualized low-load motor control exercises and education versus a high-load lifting exercise and education to improve activity, pain intensity, and physical performance in patients with low back pain: a randomized controlled trial.
- Beckham. Isometric strength of powerlifters in key positions of the conventional deadlift.
- Bird. Exploring the deadlift.
- Berglund. Which Patients With Low Back Pain Benefit From Deadlift Training?
- Bezerra. Electromyographic Activity of Lower Body Muscles during the Deadlift and Still-Legged Deadlift.
- Blatnik. Effect of Load on Peak Power of the Bar, Body and System during the Deadlift.
- Brown. Kinematics and kinetics of the dead lift in adolescent power lifters.
- Cholewicki. Lumbar spine loads during the lifting of extremely heavy weights.
- Cholewicki. Lumbar posterior ligament involvement during extremely heavy lifts estimated from fluoroscopic measurements.
- Cochrane. Muscle Activation and Onset Times of Hip Extensors during Various Loads of a Closed Kinetic Chain Exercise.
- Coswig. Kinematics and kinetics of multiple sets using lifting straps during deadlift training.
- Ebben. Muscle activation during lower body resistance training.
- Escamilla. A three-dimensional biomechanical analysis of sumo and conventional style deadlifts.
- Escamilla. Biomechanical analysis of the deadlift during the 1999 Special Olympics World Games.
- Escamilla. An electromyographic analysis of sumo and conventional style deadlifts.
- Farley. Analysis of the Conventional Deadlift.
- Galpin. Acute Effects of Elastic Bands on Kinetic Characteristics During the Deadlift At Moderate and Heavy Loads.
- Graham. Exercise: Deadlift.
- Granhed. The loads on the lumbar spine during extreme weight lifting.
- Hales. Kinematic analysis of the powerlifting style squat and the conventional deadlift during competition: is there a cross-over effect between lifts?
- Hales. Improving the deadlift: Understanding biomechanical constraints and physiological adaptations to resistance exercise.
- Hancock. Variation in Barbell Position Relative to Shoulder and Foot Anatomical Landmarks Alters Movement Efficiency.
- McAllister. Muscle activation during various hamstring exercises.
- McGuigan. Biomechanical Analysis of the Deadlift.
- Moir. Effect of Cluster Set Configurations on Mechanical Variables During the Deadlift Exercise.
- Nemeth. Hip load moments and muscular activity during lifting.
- Noe. Myoelectric activity and sequencing of selected trunk muscles during isokinetic lifting.
- Piper. Variations of the Deadlift.
- Sakakibara. Influence of lumbopelvic stability on deadlift performance in competitive powerlifters.
- Schellenberg. Kinetic and kinematic differences between deadlifts and good mornings.
- Swinton. A biomechanical analysis of straight and hexagonal barbell deadlifts using submaximal loads.
- Swinton. Kinematic and kinetic analysis of maximal velocity deadlifts performed with and without the inclusion of chain resistance.
- Winwood. A Biomechanical Analysis of the Farmers Walk, and Comparison with the Deadlift and Unloaded Walk.
- Wright,. Electromyographic Activity of the Hamstrings During Performance of the Leg Curl, Stiff-Leg Deadlift, and Back Squat Movements.