ベンチプレスのレッグドライブについて:序論
信じがたいですが、私は昔から不機嫌で虚弱な見た目をしているストレングスコーチではありませんでした。かつては明るくて誰もが愛する体重300ポンド(136キロ)のパワーリフターです。
フルギアだけやっていた訳ではありませんが、ベンチプレス専門になってからは多くの試合をベンチシャツを着てフルギアでやっていました。数年前にはそれが流行りだったからです。
パワーリフティング出場をやめて1、2年後に、主に初級者トレーニーが通うパワーリフティングクラブを始めました。
既にノーギアパワーリフティングに出場したことがある選手も含め、多くの選手はレッグドライブをいかに効率的に使うか、またはそもそもレッグドライブとは何なのか、わかっていませんでした。
私にはその事実に困惑しました。私が競技者としてフルギアベンチをやっていた時は、ベンチプレッサーであればいやになるほどレッグドライブの話をしていました。一方で、この若い世代の選手たちにとってはレッグドライブが謎な存在であるように思えました。
しかし、この選手たちと会話を続けていくと、ただ単に身体のタイプやトレーニングによって、レッグドライブの使い方に制限があることを理解していないだけだとわかりました。それが原因で、彼らはレッグドライブを最大限に利用できていなかったのです。
効果的なレッグドライブは、ただかかとを最大限地面に押し付けるだけではありません。プレスをサポートするレッグドライブの役割や理想的なポジションは、モビリティや身体のサイズ、骨格、さらにはシューズによって変化します。
レッグドライブによって、ベンチプレスが劇的に強くなったり弱くなったりすることはありません。私自身もそれなりに高重量をベンチできるようになるまでは、レッグドライブが効果的なことを完全には理解していませんでした。
凄い強いリフターでもレッグドライブを一切使わないケースもあれば、試合前だけ徐々に練習してレッグドライブを利用するケースもあります。
しかし、最大重量を挙上するためにレッグドライブがどれくらいあなたのベンチプレスを伸ばせるか知ることは、非常に重要です。この記事では、レッグドライブの要素がパフォーマンスにどう影響するか1つ1つ解説していきます。
足のポジションによる制限
インターネット上でベンチプレスの解説動画を見ると、大体の人は足を「後ろ」に置くように言っています。しかしながら、多くの場合この「後ろ」がどれくらいなのかちゃんと説明しておらず、本人も理解していません。
足を後ろにセットする理由は、アーチを高くして足を地面に押す最適なポジションを生み出すためです。
しかしながら、初心者に「出来る限り後ろに足を置く」と伝えるのは問題があります。多くの初心者は股関節のモビリティやスタビリティ(安定性)に欠けていて、このポジションから力を入れてドライブできないからです。
仮にこのポジションを無理矢理セットしてレッグドライブしようとしても、脚や臀部が攣ってしまうでしょう。特に身体の大きい選手にとっては問題です。選手に無理に足を後ろに置かせてアーチさせるのはネガティブ要素の方が大きいのです。
もしリフターが柔軟性に欠けていて足を後ろに置けない場合、無理矢理置かせてもただ不快で効果もありません。ほんの少ししかドライブできない、もしくはまったくできないからです。
柔軟性がないのに足を後ろに置くと、股関節屈筋群が収縮し、お尻を浮かせずしてレッグドライブを発揮することができません。
初めたてのときは、極端に後ろに置くのではなく、スネが地面と垂直になる程度が良いです。このポジションであれば、ほとんど誰もがお尻を浮かせずに、地面を押して(脚が天井に向かって若干押し上がるイメージです)レッグドライブを利用できます。
このポジションでも股関節に無理があり身体全体のアーチが作れない場合や、より大きなアーチが欲しい場合は、柔軟性について考える必要があります。
足を後ろに置くポジションのための柔軟性を獲得するには、股関節屈筋群に着目しなければいけません。大腿直筋は股関節と膝の両方に繋がっています。そのためアーチをしたときに、大腿直筋には強いストレッチがかかります。股関節は伸展する一方で、膝も曲がっているからです。
大腿直筋はどちらの関節にも反対方向に働きかけます(股関節を屈折し、膝を伸展する)。つまり、このポジションでの可動域を広げるためには、同様のストレッチされたポジションを再現することが理にかなっています。
足をベンチに乗せたりバンドに引っ掛けたりして行う股関節屈筋群のストレッチでベンチプレスのポジションを再現できます。呼吸やリラックスに関しては普段のルーティン通りで大丈夫です。
獲得した可動域がベンチプレスで使えるように、ベンチプレス前・中のウォーミングアップでストレッチを行うと良いでしょう。柔軟性が向上してすぐに荷重した動作を行うことで、効果が長期的になりベースの柔軟性になる可能性が高まります。
股関節の柔軟性が伸びてきたら、アーチが腰のみによって作られない限り、足のポジションをより後ろにしてみて大丈夫です。
足首の柔軟性も足の位置とアーチの高さに大きく影響します。もしつま先が極端に外側を向いていたり、プレス時に不安定だとしたら、足首の柔軟性を改善しなければいけないことは明確です。
足首の柔軟性が欠けていて、かかとが地面につけられない場合、レッグドライブはほとんど得られないです。足首の柔軟性に関しては情報が広まっているためエクササイズの紹介は特に行いません。こういった小さなこともベンチプレスの大きな問題に繋がるということを理解しておいてください。
多様な身体のサイズと多様なレッグドライブ
股関節と足首の柔軟性向上に努力したとしても、身体の大きなリフターはアーチ状態で足を地面に真っ直ぐドライブすることに苦労します。超級クラスのリフターはほとんど間違いなく、お尻をベンチにつけた状態で股関節を上にドライブすることが難しいです。
軽量級リフターのようにポジションをキープできないため、足で押したらお尻が上がってしまいます。個人的な経験からわかりますが、ある程度のサイズ以上の人は、どんなモビリティエクササイズをやってもこの問題を解決できません。
大きなリフターは水平なレッグドライブを使う方が適しています。水平に押すことは、足を地面にドライブしてベンチの頭側に身体がスライドするようなイメージです。
身体を安定させ上背部を固めてベンチに押し付けていれば、若干ベンチの頭側方向に身体が動くかもしれませんが、お尻はベンチについたままになり、足全体も地面についたままになります。若干スライドする動きに関しては、ほとんどのパワーリフティング連盟のルールで認められています。
私も大きくなればなるほど、このタイプのレッグドライブを使いました。実際に、Chad Wesley Smithはこれに似たテクニックについてMark Bellとのビデオで話しています。
男はシューズで決まる...少なくともレッグドライブは
足首の柔軟性によってどれくらい足を後ろに置けるかが決まると前述しました。しかし、パワーリフティング連盟によってもこのポジションは変わってきます。
私がパワーリフティングを始めた時は、現在は無くなっているような小さな連盟の試合に出ていました。その連盟では、「かかとが地面についていなければいけない」のようなルールは存在していませんでした。
当時は私の身体も大きすぎず、股関節の柔軟性があったため、足を後ろの方にセットして高いアーチを組めました。かかとが上がっているこのポジションでも、プレス時にかかとを意識的に地面に押して強いレッグドライブを体感していました。
かかとを地面につけなくてもよかったため、シューズの種類は気にしていませんでした。しかしUSAPL(アメリカのIPF系列連盟)で競技をするようになってからは、試技で成功判定をもらうために、ヒールの高いオリンピックウェイトリフティングシューズが必要だとわかりました。(※IPFではかかとが地面についていなければいけない。)
ヒールが高いことで、かかとを浮かしている状態でレッグドライブを行うのと似た感覚で足を後ろに置くことができました。ソールが硬いので地面にしっかり足をつけて、足がずれることなくプレスできました。かかとが動くだけで無効試技になるので注意してください。
身体が大きくなるにつれて、良いポジションを取れなくなってきたので、ヒールの高さは非常に重要になりました。シューズのヒールなしではかつて得られていたようなレッグドライブが生み出せていなかったと思います。体重が増えたことで膝が昔ほど曲げられなくなったためです。
もし試合を行う連盟にかかとに関するルールが存在しなければ、私が昔履いていたようにフラットで軽量なシューズの方が快適に感じるかもしれません。
USAPLのような厳しい連盟ではなくて、ウェイトリフティングシューズにはお金が出せない場合は、かかとを動かさずにレッグドライブを得られる最適な足のポジションを見つけなければいけません。フラットで柔らかいシューズでかかとが明確に動いている場合は、自分にとって最適な足の位置であっても試合では無効試技になってしまうかもしれません。
フラットシューズでベンチプレスをやる場合は、先程説明した水平レッグドライブを使わないといけないかもしれないです。試合の前に余裕を持って自分に何が必要かを把握して、試技成功のために無駄なトレーニングをしないようにしましょう。
ベンチプレスのレッグドライブに関する考え
ベンチプレス愛好家はテクニックやレッグドライブについて語り合うことに夢中になりがちです。レッグドライブは高重量をプレスするための唯一の要素ではなく、強いベンチプレサーの中にもレッグドライブにほとんどこだわらない人もいます。
しかしながら、あながた中級レベルのリフターでトータル重量を伸ばしたいのであれば、何が自分に最適か見つける必要があります。自分の強みに最適なポジションを見つけて、それを効率的に使えるようにトレーニングしましょう。