序論
誰もが、筋肉を増やすためにはハードにトレーニングしなければいけないと理解しています。
そしてほとんどの人たちは、筋肉以外のためのトレーニングと同じ様に、最速で成長するためには時間が経つにつれてトレーニングをよりハードにしなければいけないとも理解しています。
問題なのは、そこで考えが止まってしまっているところです。
「よりハードに」とは何を意味するのでしょうか?
ほとんどの人は「より重い」と考えるでしょう。それは間違ってはいません。
しかし、「重い方がハード」というのは、正直に言うと、ストレングストレーニングのコミュニティからあまり考えずに受け継いできた考えです。
ストレングストレーニングでは、「よりハードに」というのはほとんどの場合「より重く」を意味します。
しかしながら純粋な筋肥大のみを求める場合は、それ以外にもトレーニングを「ハードに」して成長を促す方法があります。
過負荷をかける3つの方法
過負荷とは、システムの適応を促すのに十分な閾値を超える負荷をかけるということを意味します。
私たちの場合、筋肉を成長させるのに十分ハードなトレーニングを意味します。
つまり、過負荷を測定するには少なくとも3つの方法、つまり3つの過負荷閾値があります。
過負荷その1: 強度
わかりやすいのは強度です。
重量が軽すぎると、完全な初心者以外の人には筋肉の成長は望めません。
何を正確に「軽すぎる」とするかは不明ですが、研究では1RMの30%またはそれ以下は、最適な筋肥大を引き起こさないと示し始めています。
同じボリュームという前提だとすると、重量が重い方が成長を促すように思われますが、実際にはボリュームとRIRが同様であれば少しの差だと考えられます。
過負荷その2: RIR
RIRといえば、過負荷のの第二の方法です。
RIR、つまり「余っているレップ数」とは、コンセントリック収縮限界のどれくらい近くまでレップを行うかを示します。
※RIR: Reps In Reserve。1セットの中で何レップ余力を残すかを示します。10RMを8レップやった場合は、2RIRとなります。
研究では、RIR4-5以上はRIR4以下(限界まで、およびそれ以上)に比べると筋肥大が劣ることが示されています。
つまり、筋肥大のために過負荷をかけるのであれば、最低1RMの30%以上で、最低RIR4でトレーニングしないと良い結果は得られないということです。
過負荷その3: ボリューム
最後にボリュームです。
ボリュームとはトレーニングの量のことで、プログラムの中で週に何セットのトレーニングを行うかで測定されることが多いです。
気づくレベルで成長するのに十分な量が最小効果的ボリューム(MEV)であり、最大回復ボリューム(MRV)に達するまでは、よりボリュームが多い方が良いと示されています。
これら3つの閾値で注意すべき重要な点は、これらは閾値であり、グラフ上の1つのポイントではないということです。
言い換えれば、これらにはボトムエンドとトップエンドがあり、その間であればどこでも成長できます。
最高の筋肥大を得るために、全ての閾値のトップエンドでトレーニングしたくなる(最もハード)かもしれません。その考えは、一部合っています。
トップエンドでのトレーニングの問題点は、おそらく最も成長を促すと同時に、最も疲労を発生させるということです。
疲労は、閾値を超えると指数関数的に発生することが実証されています。
言い換えれば、RIR4ですべてのセットを止めると、RIR0で止めるよりも成長度が少し下がるかもしれませんが、疲労はほんの少ししか生まれません。ボリュームが同じでもです。
そのため、1回のトレーニングで出来る限り成長しなければいけない場合、強度・RIR・ボリュームを全て最大限で行えばいいでしょう。
しかしながら、そうすると疲労度が大きくなり、回復のためにハードなトレーニングを休んで、結果的に成長する機会を失ってしまいます。
このように、トップエンドを恐れて安全なボトムに留まることもできますが、文字通り、最小限の結果が得られるようにプログラムを構成することになります。
疲労と効果を考えると、過負荷の閾値のほとんどで、同様な筋肥大を得られるように思えます。
もしそうだとしたら、なぜ1RMの60%、2RIR、MEVとMRVの間、というシンプルな中間地点のトレーニングを常に行うのではないでしょうか?
負荷を増やしていく必要性はあるのでしょうか?
負荷を増やす理由
3つの過負荷の中間地点で常にトレーニングして、長期間良い結果を得られるでしょうか?
もちろんです。
しかしながら、最適な筋肥大とはなりません。理由は以下の2つです。
言い換えると、これら2つが、トレーニング負荷を増やす理由となります。
過負荷の閾値を超えるため
トレーニングの負荷を増やさなくても、数ヶ月の間は成長できます。
しかしながら、成長の度合いが小さいため、いくつかの閾値を超えられなくなります。
例えば常にRIR2でトレーニングしたとしても、1RMの60%がいずれ1RMの29%になり、ボリュームはMEVを下回ります。
結局のところ、5年前にやっていたトレーニングを未だにできるのかということです。
そんなのウォームアップになっている人もいるでしょう。
RIR2を保つのは辛いですが、その内RIR2で2-3セットやるだけで過去と同様のボリュームに達してしまうようになります。
1RMの30%以上かつMEVを超えるように負荷を増やせばいいです。
ただ、他にも理由があります。
最小ではなく最大適応効果を得るため
上記の方法で閾値の最低限を常にキープした場合、定義通り最小の筋肥大しか引き起こせません。
最小の筋肥大なんていりません...最大の筋肥大が欲しいんです。
であれば、なぜ強度とボリュームを必要に応じて増やすしRIR2をキープすることで、閾値からトップエンドの中間地点を維持しないのでしょうか?
ある週で最大の筋肥大を生み出していた負荷でも、次の週になると十分な負荷ではなくなってしまうからです。
第一に、フィットネスが向上すると同時に疲労も生成されます。
疲労と刺激の適切な比率が重要です。しかし疲労は蓄積されるため、実際には簡単なことではありません。
常にRIR2でトレーニングした場合、メゾサイクルの始めは適切な比率ですが、疲労が蓄積するに従って、RIR2をキープしようとするために比率がどんどん悪くなってきます。
疲労が蓄積してディロードに近くにつれて、RIRのトップエンドに近づいてより良い筋肥大を狙っても良いでしょう。
どちらにせよ蓄積された疲労により近いうちにディロードをしなければいけないため、ついでにさらなる成長を狙います。
例えば、ディロード前の最終週でRIR2で止めているとして、誰かに「なんで限界(近く)まで追い込まないの?」と聞かれたら何て答えるでしょうか。
おそらく良い回答ができないはずです。
また、RIR4でも成長できるのに、なぜRIR2から始めるのでしょうか?
RIR4の相対強度では怪我のリスクや疲労の蓄積が非常に小さく、テクニックを練習したりマインドマッスルコネクションを向上させて、後半のよりハードな週までのモメンタムを生み出せます。
さらに、RIR2で始めると必要以上に筋ダメージを発生させる可能性があり、筋肥大を促す生理学的なメカニズムに競合してしまいます。
過剰な筋ダメージを生み出さないように、もう少し簡単に始めて徐々に負荷を増やした方がいいかもしれません。
RIR4ではなくRIR2から始めるのは、5ドル札と20ドル札が落ちているのをみて、5ドル札を無視して20ドル札だけ取っていくようなものです。
どちらにせよ取るのであれば、両方取っておきましょう。
まとめると、トレーニングをハードにするのは「効果的な状態を保つ」だけではなく、最大の効果を得るためにも行います。
そのために、最も簡単なところからスタートし、最も難しいトップエンドに向かって負荷を増やしていくのです。
どの負荷を増やしていけばいいのか?
この問いに対する答えがおそらく「全ての要素をいくらか増やす」だということは分かっているでしょう。
しかし、「いくらか」とはどれくらいなのでしょうか?
言い換えると、毎週徐々に限界に近づき、重量を増やし、ボリュームを増やすべきですが、それぞれどの程度なのでしょうか?
全て同じ様に増やすのか、どれかに集中してそれ以外は増やさないのでしょうか?
RIRの増やし方
まず最初にRIRについてです。幸運なことに、RIRは非常にシンプルです。
ボリュームか強度を固定して、どちらかの負荷を増やしていく場合、レップ数を固定していればRIRは必然的に上がっていきます。
詳細は後述しますが、端的に言うとボリュームや強度、もしくは両方を増やせばRIRは毎週自然と上がるのです。
重量が増えても同じレップ数の場合、もしくはセット数が増えて疲労が蓄積されても同じレップ数の場合、そのレップ数を達成するためにはRIRは上がらなければいけません。
これでRIRの増やし方は大丈夫ですね。
実際のトレーニングではどのようになるのでしょうか?
4週間のメゾサイクルの場合、RIR4から始めて、RIR3、RIR2、最後にディロード前にRIR1をやることになります。
もう少し長くする場合、RIR3やRIR2の週をそれぞれ2週間にもできます。
RIR4(効果的でない)やRIR1または0(疲労が蓄積し過ぎる)を長い間続けないようにする点だけ気をつけましょう。
強度の増やし方
非常に一般的な負荷の増やし方です。
より強くなるために、毎週重量を増やしていくというものです。
しかし最近の研究では、短期間で強くなることが必ずしも最大の筋肥大に繋がるわけではないと示されています。
それどころか、短期間でボリュームを増やすと確実に筋サイズにも繋がり、長期的な筋力の向上は長期的な筋肥大と大きな相関関係があります。
視点を変えて考えてみましょう。
1RMの85%と70%を同ボリューム、グループ間の差異なしで実施した研究がいくつかあります。
高重量の方が結果が良かった研究もある一方で、あくまで少数派であり、差もそこまで大きくはありません。
つまり、1RMの70%から85%に増やしてより筋肉が大きくなるのを期待するのは、トレーニング科学的には根拠がないのでしょうか?
一方で、トレーニングボリュームに関する研究のほとんどは、あるポイント(いくつかの研究が上限を示しています)まではボリュームが多いほど筋肥大も大きいと示しています。
上記のボリュームに関する研究は、非常に信頼性が高いです。
おっと。これは強度を一切増やさなくていいということでしょうか?
いいえ、そうではありません。
第一に、重量を増やすこと自体がおそらく筋肥大を促します。
第二に、レップ数とセット数を固定して重量を増やすと、ボリュームが上昇するため(ボリュームはレップ数 x セット数 x 重量であるため)、これも利点として挙げられます。
第三に、レップ数によって刺激される筋繊維タイプが異なる可能性、または異なるメカニズムによる筋肥大を促す可能性があります。
その場合、レップ数を狙い通りにするためには、強度を増やさなければいけません。
強度を増やさなかったからといって、10レップのセットを15レップにする訳にはいきません。
最後に、筋肉のサイズは長期的な筋力向上と大きな相関関係があります。
それに加えて最低強度を維持しなければいけないことを考えると、徐々に強度を増やさなければいけないということが分かるでしょう。
注意するべき点は、これらの要素を合わせると、特に強度またはボリュームを増やす兼ね合いを考えると、強度を増加させる度合いは小さくあるべきだということです。
それは毎週バーベル種目で2.5kg増やすことかもしれませんし、ダンベルの重量を2-3週毎に1つ上げることかもしれませんが、ほとんどの場合はそれ以上はいきません。
このやり方で長期的に強くなりますか?もちろんです!
このやり方でかなり大きくなれますか?ほぼ間違い無いです。
ボリュームの増やし方
強度を固定してボリュームを増やすのはかなりの成長に繋がるということを既に確認しました。
また、ボリュームの目安(MEV、MRV)も理解し、「最適なボリューム」を探究するのではなく、下限から上限に増やしていけばいいとも分かりました。
それでは、例えば毎週、どれくらいボリュームを増やせばいいのでしょう?
数年間トレーニング経験があれば、自身のMEVやMRVをそれなりに理解しているはずです。
正式な説明ではないですが、MEVはパンプや筋肉痛、疲労を多少感じるボリュームです。
MRVはそれ以上やると疲労しすぎて、次週の筋力に大きく影響が出る(予想していた通常の疲労よりも大きく)セット数です。
例えば、MEVが週10セットで、MRVが週20セットだとします。(1部位あたり)
ディロード前に4週間トレーニングすると、1週目に10セット、2週目に13セット、3週目に16セット、4週目に20セットというようにできます。
筋力のメゾサイクルで1RMの70%から80%に徐々に増やしていく様に、ボリュームもMEVからMRVまで同様に増やしていきます。
オートレギュレーション
オートレギュレーションを取り入れたよりファンシーな負荷の増やし方はあるでしょうか?
はい、非常に効果的です。
しかしながらファンシーなものを取り入れる前に、基礎を理解することが重要です。
前述した内容が複雑に感じる場合は、以下のシンプルな内容を確認してみてください。
- プログラム開始時はRIR4から始め、徐々に負荷を高めていきましょう。
- 様々なレップ数(8レップと12レップと20レップのセットなど)と重量を定めプログラムを開始し、レップ数は同じまま毎週少しだけ重量を増やしましょう。
- プログラム開始時は筋肥大するけどそこまで辛くないボリューム(MEV)から始め、パフォーマンスが低下するまで(MRV)毎週セット数を増やし、その後にディロードで疲労から回復しましょう。
- ボリュームが筋肥大を促す第一の要素ということを覚えておきましょう。ボリュームを代償にその他の要素(強度、RIR、テクニックなど)を変える場合は、適切な根拠を持つべきです。