パワーリフティングにおいて体組成が注目されるべき理由

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パワーリフティングにおいて体組成が注目されるべき理由

序論

競技の人気が広まると共に改善しつつありますが、パワーリフティング界隈では体組成はなかなか語られないどころか、完全に軽視されていることがあります。

これはどういうことかというと、パワーリフティングという競技の中でアスリートの体脂肪量はほとんど無関係だとされ、挙上重量のみに焦点が当てられています。

超級の場合(連盟によりますが、体重120〜140kgを超える選手)は、それでもいいでしょう。

しかし、それ以外のパワーリフターは自身の階級の中で可能な限り強くなるという課題があるため、体脂肪を落とす必要があるかもしれません。

エディホール
エディ・ホール(画像)はパワーリフターではなくストロングマンですが、パワーリフティングと聞いてよく連想される体格は彼のような筋肉質で体脂肪が多い体です。SHWアスリートの少数を除き、実際に成果が高いパワーリフターの中では稀な体格です。

体組成を気にするべき理由

パワーリフティングには階級がある

パワーリフティング競技者であるクライアントに体脂肪カットを推めると、少し驚くことが多いです。

そういったクライアントの考えは、「パワーリフティングは筋力のスポーツなのだから、多少余分な体脂肪があっても関係ないのではないか?」というものです。

結局のところ、パワーリフティングのアスリートは自分の好き勝手にし、余分な体重を気にする必要がないスポーツであるという固定概念が定着しています。

「ボディビルダーほど絞れないなら、パワーリフターになればいいだけ!」といったジョークも存在するほどです。

この考え方の問題は、パワーリフティングは体重別階級のある競技ということです。つまり、自分と似た体重の人と競うことになり、それぞれの階級で最も強いリフターが勝利します。

より直接的に説明すると、同じような体重でも相手選手の方が体脂肪率が低い場合、必然的に相手の方が筋肉量が多いことになります。

そして当然ながら、筋肉は筋力の重要な決定要因です。(競技者全員が適切なテクニックと神経系を持ち合わせている前提)

パワーリフター
非常に強く、かなりリーンなパワーリフターたち:ダン・グリーン、ジェシー・ノリス、コンスタンティン・コンスタンティノフス、ザヒール・クダヤロフ。

階級と体脂肪の例

75kg級に参加し、あなたの体脂肪率が18%であり、相手選手が12%と仮定しましょう。

この場合あなたの除脂肪体重(脂肪以外の体重)は61kgほどですが、相手は66kg近くであり、あなたより5kg多いことになります。

その他全てが平等であると仮定して、相手の方が筋量が多いため、あなたは負けます。

体脂肪によって筋力が向上するという考え

また、脂肪を付けることによって強くなれるため、余分な体脂肪があっても大丈夫だという考え方もあります。

例えほとんど脂肪だとしても、体重が増えれば強くなりやすいというのはよく知られていることです(典型的なダーティバルクを思い浮かべてください)。

だからといって、脂肪そのもので筋力が伸びるのでしょうか?そうではありません。体脂肪は収縮せず、筋出力に貢献しないため、直接的に筋力を向上させません。

ただし、体重が重い時の方が強く感じる理由は主に2つ考えられます。

1) 食事量が増える:

単純に食事量が多いため、強くなりやすくなります。

体脂肪そのものが貢献しているのではなく、食事を増やすことによって、体脂肪が増加しトレーニングの燃料も生み出されます。

さらに、食事量が多いと水分もより保持されることになるので、挙上効率が向上します。(訳注;水分量が増えることで身体が大きくなり、挙上距離が短くなる、接触部分が増えるといった意味だと思われます。)

2) 腹部が大きくなる:

スクワットにおいて腹部周りの体脂肪が多い場合、お腹が太腿に圧をかけられ、跳ね返りが楽になることがあるかもしれません。

ベンチプレスにおいても腹部が大きいと可動域が短くなるため(降ろす位置が十分低い場合)、得することがあるでしょう。(訳注:降ろす位置が低い、はお腹側に降ろすという意味です。)


上記の2点目に関して当てはまる人は少ないですが、一点目はより普遍的です。太っていたり体脂肪を増やすということは、一般的に筋力向上が簡単になります。

ただし、繰り返しになりますが、パワーリフティングは体重別階級のある競技であるため、体脂肪、それに伴い体重を増加させることはマイナスに働きます。

階級を下げると競技力が上がる

これらの理由から、パワーリフティングの原則として、できるだけ筋肉質でありながら、できるだけ体脂肪をカットすることが理想的です。

文字通りではありませんが、この単純なルールは「埋める」、つまり自身の階級を最大限使うことを意味します。

言い換えると、余分な脂肪は「無駄な体重」というわけです。

その脂肪を落とすことによって階級を1つ、もしくはそれ以上下げることができ、競技力を上げられます。

もう1つ基本的な考え方として、階級が低いほど、自身の競技力が上がるとも言えます。

階級と挙上重量の関係性

例えば、IPF世界大会の結果を見ると、93kg、83kg、74kg級のトップ5平均記録は、それぞれ796kg、721kg、691kgです。非常に大きな差です。

74kg級の選手が20kg体脂肪を増やしたのを想像してみてください。

体重が増えることで筋力も伸びると思われますが、確実に105kgもトータルが伸びるほどではないです。

筋量と筋力に関する研究

関連した話だと、こちらの2013年の研究では、男性パワーリフターの場合、筋量が1kg増えると、スクワットとデッドリフトは5〜8kg、ベンチプレスは3〜5kg向上する相関関係が示されています。

階級が上がるほど筋力の基準も上がり、階級が下がるほど筋力の基準も下がるという証拠です。

そのため、体脂肪率を十分に低くして階級を可能な限り下げれば、上の階級に参加した時ほどの筋力が要らなくなります。

筋量と筋力は必ずしも関連しているとは限りませんが、確実に大きく関わっています。

この相関関係を詳しく学びたい方は、グレッグ・ナコルズ著の筋量と筋力に関する20152016の記事を読んでみてください。

[sanko href="https://athletebody.jp/size-vs-strength/" title="筋量 vs 筋力" site="athletebody.jp" target="_blank"]

体脂肪率の下限について、注意しなければいけない点があります。簡潔に述べると、体脂肪率が低すぎるとクソみたいに感じます!

ホルモンに影響が出始めるかもしれませんし、気分も変化し、トレーニングも悪くなってきます。悪影響が出るものは他にもいくつもあります。

こういった悪影響が出始める体脂肪率は人によって違いますが、10〜15%あたりが一般的です(自身の基準値によって大きく変わりますが、本記事では深掘りしません)。

目標は「健康状態と生産的なトレーニングを保ちながら、体脂肪率を出来るだけ落とす」ということです。

しかしながら、重要なのは体重を落とした後に健康状態を確認することです。

ダイエットによる肉体的・精神的ストレスが原因でほぼ確実に普段より感覚が悪くなりますが、ダイエット中に健康状態が悪化したように感じたからといって、体脂肪率が低すぎる訳ではありません。

一方で、ダイエット後の体重を2〜3ヶ月維持している中で感覚が悪くなっていたり、トレーニングの生産性が落ちている場合は、パワーリフティングという目的に対して体脂肪率が低すぎるかもしれません。

体脂肪率を落とす目的は、階級を下げることによる競技力の向上ということを忘れないようにしましょう。

今以上体脂肪が落とせないレベルでリーンなのであれば、ダイエットはしなくていいと思います。

フィットネスモデル
パワーリフターにとって体脂肪率が低いのは良いことですが、ボディビルダーやフィットネスモデルほどリーンなのはパフォーマンスに悪影響を及ぼし、競技力が落ちます。

体脂肪率を落とす時のコツ

階級を下げて競技力を向上できるとしても、簡単な訳ではありません。

トレーニングをしない人にとってもダイエットは辛いですが、トレーニングする人によってはさらに辛いです。

トレーニング初心者であったり、元々かなり体重がある人でない限り、ダイエット中は競技パフォーマンスを向上させることが難しいです。

上記の人以外は、ダイエットによって筋力を向上するどころか、現状維持も難しくなります。

人によって、またダイエットの方法によって差はあるものの、優れた体質と効果的な手法をもってしても大体の人は筋力維持に苦戦し、筋力低下に陥ることが多いです。

両極端の例として、運が悪い人は大幅に筋力を失い、一部の運が良かった少数派のみが悪影響なしでダイエットできます。

後者になるための解決策は存在しないものの、以下に助けになる手法を紹介します。

炭水化物摂取量を多く保つ

カロリー摂取を落とすために炭水化物摂取量を減らすのではなく、基本的に脂肪摂取量を減らしましょう。

脂肪を減らせる量は限られているため、最終的には炭水化物も減らさないといけないかもしれませんが、あくまで最終手段です。

パフォーマンスのために炭水化物は重要であるため、筋力維持のためには低炭水化物ダイエットは向いていないです。

トレーニング前後に炭水化物を摂る

この手法によって差を感じる人とそうでない人がいますが(おそらく炭水化物摂取量によるもので、摂取量が少ない人ほど影響が大きいと思われます)、ダイエット中に健康状態とトレーニングの生産性を保つために試してみてもいいでしょう。

急いでダイエットしない

ゆっくりと減量しましょう。大抵の場合、1週間に0.5kgのペースが良いです。

ダイエットのペースによって、どれくらい筋力を維持できるかが左右されます。

週に0.25kgといったもっとゆっくりとしたペースで始めてもいいです。その方が簡単になります。

ゆっくりと体重を落とすほど、パフォーマンスを維持できます。

問題なのは、ダイエットのペースがゆっくりであるほど、期間が長くなるため、筋力を向上させられない期間も長くなるということです。

ゆっくりとダイエットした分だけ、反対に自己ベストを更新する時間に出来たかもしれません。どのようにそのバランスを取るかは、選手やその時の状況によって判断しましょう。

適切なボリュームでトレーニングする

高強度でトレーニングすることで筋力維持しようと、ダイエットを始めた瞬間に急激にトレーニングボリュームを落とす人がいます。

そうはいきません。

ボリュームは身体の適応を生み出す、維持するための非常に大きな要素であるため、必要以上にボリュームを落とさないでください。

反対に、ダイエットを考慮せずにトレーニングプログラムを組む、つまり筋力低下を恐れて一切ボリュームを落とさない人もいます。

ダイエットにより回復力が低下し、十分に回復できるボリュームも低下するため、これも良くないです。

ボリュームを無理矢理維持しようとすると、回復できる以上にトレーニングすることになり、その内オーバーリーチします。

この時点でアウトですが(計画的ないわゆる「機能的」オーバーリーチングという例外を覗き)、ダイエット中は諸悪の根源になります。

最適な結果のためには、ダイエット開始時点と同じボリュームを維持し、必要に応じて調節/低下させていきましょう。

マラソンではなく休憩を挟んだスプリント

ダイエットが長いほど、一般的に多くの筋肉を失い、またダイエット自体も難しくなります。

こういったリスクを最小限に抑えるために、2ヶ月前後毎に1〜2週間(もっと長くても良いです)、減量ではなくて体重維持レベルの食事をする休憩期間を設けると良いでしょう。

こういった期間があると、ダイエット中のトレーニングをサポートでき、ダイエット再開後に簡単に継続できるようになります。

ダイエット中のモチベーション

改めて、上記の手段を用いても、多くの人は筋力を向上させられない、もしくは維持できません。

パワーリフティングが好まれる点は成長を定量的に見れることです。スクワットで先月は165kgを5レップだったのが、175kgを5レップできたら、最高です。

ダイエットをするということは、こういった成長を確認できなくなり、数字が一定のままか、もしくは低下することを意味し、モチベーションや自我にとって非常に辛いです。

その対策として、ウィルクス(Wilks)スコアを記録していくのが良いでしょう。

体重が81.6kgだとします。トータルが551kgだとウィルクスは372です。

体重を4.5kg落とし77.1kgになり、トータルも7kg落ちて萎えます。しかしウィルクスは381です!9ポイント高いのです。

81.6kgのままでそれ程ウィルクスを上げるとなると、13.6kgトータルを伸ばさなければいけません。

筋力が低下したとしても、ウィルクスが伸びていたら、それは成長でしょう!正しい方向に進んでいて、それが重要なことです。

それに加え、筋力を伸ばすよりも失った筋力を取り戻す方が圧倒的に早いということも覚えておいてください。

パワーリフティングと体組成;まとめ

長期戦ということを忘れないでください。

永遠とダイエットが続く訳ではありません。ダイエットが終わった後は通常の食事に戻り、ダイエット前のレベルにすぐ戻ります。

一時的に停滞して不安になるのではなく、目的に集中しましょう。

まとめると以下の通りになります。

  • 一般的に、競技力を最大限高めるために、出来る限り下の階級に参加した方がいいです。
  • そのため比較的体脂肪率を低くする必要があります。若干体重が重い場合は、そこまで気合いを入れなくても階級を下げられるでしょう。
  • ダイエット中は筋力向上が難しいですが、我慢です!ダイエット後はすぐにダイエット前の筋力に戻れ、今まで以上に競技力のあるパワーリフターになれます!

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