少しでもサプリメントに手を出している人であれば、BCAAを飲んだことがあると思います。
「筋たんぱくの合成を高める」とか「減量時のカタボリックを防ぐ」とか、魅力的な効果を耳にしますよね。
本記事では、そんなBCAAに関する現在までの研究結果を解説していきたいと思います。
BCAAとは?
BCAAは、Branch Chain Amino Acidsの省略で、日本語では分岐鎖アミノ酸と呼ばれます。
そのBCAAは以下の3つの必須アミノ酸によって構成されています。
- ロイシン (Leucine)
- イソロイシン (Isoleucine)
- バリン (Valine)
最近は、これらのアミノ酸によって筋たんぱく質の合成や分解抑制、筋肉痛の抑制などの効果が期待できるとして、サプリメント界でも人気が高いです。
実際にそのような科学的根拠があるのか、いくつかの論文を解説していきます。
BCAAと筋トレに関する研究・論文
XTENDのメーカーに援助されたBCAAの研究 *(1)
- BCAAを1日14g摂取させる効果を調べた研究
- 対照グループでは28gのプロテインもしくは炭水化物を摂取
- 8週間トレーニングを行い、体組成や10RMを計測
- 除脂肪体重や体脂肪、筋力といった指標でBCAAグループが圧倒
この研究が、BCAAが人気になる要因の1つであったと思われます。
炭水化物との比較はあまり意味がないと思うので、ホエイプロテインと比較した結果を以下のまとめました。
指標 | BCAA | ホエイ |
---|---|---|
除脂肪体重 | +4kg | +2kg |
体脂肪率 | -2% | -1% |
ベンチプレス | +6kg | +3kg |
スクワット | +11kg | +5kg |
簡単に言うと、BCAAを取ることでホエイプロテインの2倍のトレーニング効果が出ています。
こんな結果が出てしまったら、BCAAを買わざるをえないですよね...
しかし、注意してほしい点があり、それはこの研究が超有名なBCAAであるXTENDのメーカーScivationによって資金援助されているということです。
もちろん、資金援助を受けているからといって、100%信用を失うわけではありません。
ただし、後述しますがBCAAの結果がポジティブではない結果が多い中、この研究だけは異常な結果が出ており、個人的には信ぴょう性に欠けます。
BCAAと筋たんぱく合成に関するレビュー *(2)
この2017年の論文では、25もの過去文献を参照した上で、以下のような結論が述べられています。
BCAA単体の摂取では筋肉のアナボリズムを促進できないと私たちは結論づける。
Branched-chain amino acids and muscle protein synthesis in humans: myth or reality?
つまり、BCAAだけでは筋肥大の効果は得られないだろう、ということです。
筋たんぱく質の合成を高めるためには、BCAAだけでなく全ての必須アミノ酸が揃っている必要があると述べてられています。
まあ考えてみたら当然ですよね。筋合成のシグナルを送っただけで材料がなかったらどうにもなりません。
この現象に関して、海外フィットネス界のトップコーチであり研究にも詳しいMenno Henselmansは以下のような例えを出していました。非常にわかりやすいです。
ロイシン単体の摂取は、電気を供給せずにランプのスイッチを入れているようなもの。いくらスイッチを入れたとしてもランプは点かない。
BCAAに関するISSNの最新レビュー *(3)
ISSNは、国際スポーツ栄養学会のことで、2018年にスポーツ栄養に関する科学的な研究と推奨項目をまとめています。主要栄養素からサプリメントまで全て詰まっていて必読です。
この論文にて、BCAAは筋肥大とパフォーマンスに関して「効能を支持するには根拠が限られている、もしくは根拠が混合している」とグループ分けされています。
そして、BCAAについて以下のように結論づけています。
- ロイシンのメカニズムは明確になってきているが、現在のデータではBCAAをサプリメントとして摂取する必要性が支持できない。
- 一方で、筋肉のダメージを軽減するという結果は複数の研究によって支持されている。
ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations
前述した論文に似ていますが、ロイシンの役割はあるものの、BCAA単体となるとまだ研究結果としては乏しいみたいです。
しかし、ダメージの軽減はBCAA単体でも結果が出ている研究が複数あるとのことで、これは使えるかもしれません。
筋肥大に直接繋がらないとしても、ダメージが軽減できてトレーニングボリュームを増やせれば筋肥大が促進できますからね。
ボリュームと筋肥大の関連性については、【最低10セット?】筋肥大に必要な1週間のセット数についての研究と考察にまとめています。
BCAAの効果的な飲み方や摂取量
正直なところ、上記の研究を見る限りBCAAはかなり優先度が低そうです。
もしBCAAを飲むとしたら、以下のような目的だと思います。
- トレーニングによるダメージの軽減
- 筋合成最大化
前者に関しては、朝と夜(トレーニング前と後)に10gずつBCAAを摂取したところダメージが軽減し回復が早まったとの研究があります。*(4)
そのため、ダメージ軽減目的であれば10gを1日に2回摂取しましょう。
筋合成狙いについて
BCAAを筋合成目的で使用する場合は、根拠が乏しいです。しかし、以下の条件であれば微かに効果があるのではと思っています。
必須アミノ酸の血中濃度が高まったタイミングでBCAAを摂取する、です。
例えば、トレーニング中にBCAAを取るとしたら、その45分前程度にホエイプロテインを30g摂取する、といった場合です。
そもそもトレ前にプロテイン取れていたらBCAA不要の可能性が高いですが、最大限の効果を求める人は試してみてもいいんじゃないでしょうか。
少なくとも予算が少ないトレーニーは、BCAAを筋肥大目的で摂らない方がいいです。ホエイ飲んでましょう。
なぜBCAAを筋トレ中に飲む人が多いのか
データを見る限り、優先して摂るべきサプリメントには思えません。
しかしながら、ジムに行くとカラフルなワークアウトドリンクを飲んでいる人はたくさんいます。
その中には、「BCAAを飲んだ方が調子がいい」、「BCAAを飲んだ方が筋肉がついた」といった感想を持っている人もいます。
個人的には、BCAAというより、XTENDなどBCAAサプリがスポーツドリンクとして機能してくれているからではないかと思います。
スポーツ同様に、当然ながらトレーニング中も水分摂取が重要です。
また、電解質はISSNのレビューでパフォーマンス向上に関して「効能を支持できる根拠が強い」グループに入っています。*(3)
BCAAの直接的な効果というよりも、適切な水分補給に繋がるため、効果を感じる人が多いのではないでしょうか。
BCAAの研究・論文について:まとめ
BCAAの研究やそれに基づいた摂取方法をまとめてみると、以下のような感じです。
- BCAA単体でのメリットは根拠が薄い
- 筋たんぱく合成促進には材料となるアミノ酸が必要
- ダメージの軽減に関しては効果がありそう
- ダメージ軽減目的の場合、10gを1日2回摂取
今BCAAを飲んでいる人は裏切られた気持ちになっているかもしれません...申し訳ないです。
しかし研究結果も結局は統計に基づいているので、極論を言うとめちゃくちゃBCAAが効く人もいれば、一切効かない人もいるということです。
どんなサプリメントにも当てはまりますが、まずはリサーチして、最終的には試してみないとわかりません。
この記事でサプリメントに関する姿勢が少し変われば幸いです。読んでいただきありがとうございました!
参考文献
- Stoppani, Jim et al. “2009 international society of sports nutrition conference and expo new orleans, la, USA. 14-15 june 2009. Abstracts.” Journal of the International Society of Sports Nutrition vol. 6 Suppl 1,Suppl 1 P1-P19. 31 Jul. 2009, doi:10.1186/1550-2783-6-S1-P1
- Wolfe, Robert R. “Branched-chain amino acids and muscle protein synthesis in humans: myth or reality?.” Journal of the International Society of Sports Nutrition vol. 14 30. 22 Aug. 2017, doi:10.1186/s12970-017-0184-9
- Kerksick, Chad M et al. “ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations.” Journal of the International Society of Sports Nutrition vol. 15,1 38. 1 Aug. 2018, doi:10.1186/s12970-018-0242-y
- Howatson, Glyn et al. “Exercise-induced muscle damage is reduced in resistance-trained males by branched chain amino acids: a randomized, double-blind, placebo controlled study.” Journal of the International Society of Sports Nutrition vol. 9 20. 12 Jul. 2012, doi:10.1186/1550-2783-9-20